第2章 測られる日々 第7話 三つの言葉
最後の協力作業では、全員で重い物資を安全に運ぶ、という課題が与えられた。
物資は木箱に見せかけた訓練用の荷だが、見た目以上に重量がある。
持ち上げた瞬間、腕と腰にずしりと負荷がかかり、油断すれば簡単に姿勢を崩す重さだった。
候補生たちは声を掛け合いながら持ち上げる。歩幅を合わせ、段差を確認し、角度を調整する。
だが、全員が最初からうまくいったわけではない。途中で一度、バランスを崩し、物資を落としてしまう者もいた。
鈍い音が地面に響き、周囲の動きが一瞬止まる。
しかし、誰かが責めることはない。
すぐに仲間が近づき、声を掛け合い、位置を調整する。
「もう一度いこう」
「次は右を少し下げて」
短いやり取りのあと、再挑戦。
今度は慎重に、確実に運ばれていく。
その様子を、少し離れた場所から見ていた講師の一人が、わずかに表情を緩めた。
だが、視線は甘くない。
称賛と同時に、次の失敗も見逃さない、厳しさを含んだ目だった。
『聖女は、失敗しても立ち上がり、仲間と助け合う力が必要。』
その言葉は口に出されることなく、評価として静かに刻まれる。
協力作業の訓練は、その後も繰り返し続いた。持ち方を変え、順番を入れ替え、負荷を少しずつ増やしながら。
訓練が終わる頃には、候補生たちの額には汗が浮かび、呼吸も荒くなっていた。
それでも誰一人、途中で手を放すことはなかった。
訓練終了の合図とともに、汗にまみれた候補生たちは中庭に集められる。
自然と列が整い、背筋が伸びる。
正面に立つのは、講師長マルコだった。
「この訓練は毎日行う訓練の一つだ。
朝8時から各自始めるように」
低く落ち着いた声が、中庭に響く。
「終了は、私マルコ、あるいはラファエル講師、イザベラ講師の号令があるまで、とする」
候補生たちは一様に頷いた。
「今日の訓練でわかったことは三つ」
マルコの声は静かだが、重みがあった。
「一つ、正しい判断は冷静さから生まれる。
二つ、行動力は人々を救う鍵だ。
三つ、仲間との信頼が、どんな困難も乗り越えさせる」
その言葉は、今しがたの訓練を、はっきりと肯定していた。
ビリジーナは黙ってうなずき、姿勢を崩さない。疲労はあるはずだが、それを表に出さない完璧な振る舞いをしている。
ジェンメリアは、少し疲れた表情を見せながらも、達成感に目を輝かせている。
全力で動いた実感が、まだ身体に残っていた。
テリカと他の候補生たちは、仲間の動きや講師の評価を思い返しながら、胸の奥で静かに決意を固めていた。
『まだ完璧じゃない。
でも、少しずつ学んでいく──!』
その想いは、誰にも聞かれないが、確かに共有されている。
講師長は、さらに続けた。
「覚えておけ。
今日の訓練での一歩一歩が、聖女への道を形作る。失敗も成功も、全てが糧になる」
中庭を吹き抜ける風が、汗を冷やす。
「自分を信じ、仲間を信じ、挑戦を続けるように」
まだ陽の光には、朝の爽やかさが残っていた。
候補生たちは疲労とともに、確かな達成感を胸に宿す。
そして、心の中で小さくつぶやいた。
『必ず成長する……。聖女として』
「午後は第2講義室に集合とする。
以上!」




