第2章 測られる日々 第6話 はじめての訓練 3/3
講師たちは、応急処置の訓練に入っても立ち位置を変えなかった。
演習エリアの外周に散り、あくまで距離を保ったまま、候補生たちの動きを追っている。
見ているのは、処置そのものだけではない。
状況判断と、次の行動へ移るまでの“間”。
迷いが出た瞬間。
それをどう処理するか──
そこまでが評価対象だった。
包帯の巻き方。
止血の圧のかけ方。
それらは一度、簡単に示されただけで、すぐに実践へ移される。
さらに、簡易担架での移動が追加課題として告げられた。
運ぶ距離は短い。
だが、角度と速度を誤れば、負傷を悪化させる想定になっている。
テリカは、周囲に溶け込むように静かに訓練を続けていた。
人形のそばにしゃがみ込むと、包帯を手に取る。
彼女の手は、わずかに震えている。
恐怖というより、「失敗してはいけない」という意識が、力の入れ方を狂わせていた。
それでも、テリカは一度深く息を吸い、講師の指導を思い出す。
順序を頭の中でなぞり、力を抜き、慎重に包帯を巻いていく。
速くはない。
だが、引っかからない。
誰かの動線を塞ぐことも、無理な姿勢になることもない。
目立たない動きだが、
そこには確かに「事故を起こさせない柔軟さ」があった。
一方。
候補生たちの中で、際立って安定しているのがビリジーナだった。
彼女は処置を進めながらも、常に周囲を観察している。
隣の候補生の動き。
担架を持つ位置。
講師たちの視線の先。
そのすべてが、自然と視界に入っていた。
何気ない日常の中で、自分の一挙手一投足は評価されている。
ビリジーナは、それを本能的に理解していた。
(どこまで見られてる……?)
心の中で小さく呟き、呼吸を整える。
その一瞬で、肩に入っていた力を意識的に抜く。
周囲には緊張感が漂い、無意識に体に力が入る場面。だが、ビリジーナはそれを自然に押さえ込んだ。
彼女は速度を求めない。
正確さを優先し、手順を一つずつ確認しながら、確実に進めていく──。
その様子を、少し離れた場所から見ていたジェンメリアは、すぐに気づいた。
ビリジーナの動きが、やけに正確で、安定していることに。
彼女の中に芽生えたのは、単純な嫉妬ではなかった。むしろ、警戒心に近い。
評価。
それは、絶対基準ではない。
他者との比較によっても、簡単に傾く──。
その事実が、ジェンメリアの胸の奥で静かに、しかし確実に重くのしかかった。
それなら──。
彼女は、視線を切り替える。
一人で完結させるのではなく、周囲と声を掛け合いながら動く。
仲間と協力し、役割を分けた。
それは、スピードを重視した処置だった。




