第2章 測られる日々 第6話 はじめての訓練 2/3
続いて、状況判断の訓練がスタートした。
その合図は声ではなく、場の空気が切り替わる感覚として伝わった。
講師たちは候補生から少し距離を取り、演習エリアの外縁に散って立っている。
近づきすぎず、干渉しすぎず。
視線だけで、生徒たちの反応を静かに追っていた。
次の瞬間。複数の人形が、ほぼ同時にバタバタと倒れ込む。
乾いた音。
布と木が地面に叩きつけられる感触。
同時に、炎や煙を模した装置が作動し、視界が一気に悪くなる。
熱を感じさせる赤い光。
鼻を突く、焦げたような匂いの演出。
それだけで、訓練場は“現場”に変わった。
候補生たちは、最初こそ足を止めた。
どこを見るべきか、何を優先すべきか。
頭に叩き込んだ手順が、一瞬だけ言葉にならずに詰まる。
「どこから手をつければ……?」
誰かの声が、思わず漏れた。
それは問いというより、焦りが形になったものだった。
しかし、その沈黙は長く続かない。
深く息を吸い、視線を定めた者から、少しずつ動き始める。
倒れた人形のもとへ向かい、距離を測り、反応を確認する。
声をかける真似をし、傷の位置を目で追う。
それを見た別の候補生が、同じように動き出す。
迷いは、連鎖しない。
行動が、次の行動を呼んでいく。
誰よりも早く落ち着きを取り戻したのは、ビリジーナだった。
彼女は一瞬だけ全体を見渡し、配置と人数を把握すると、迷いなく一体目の人形へ向かう。
無駄な動きがない。
手順を一つも飛ばさず、だが遅れもしない。
その動きは、講師たちの目に、理論と冷静さを兼ね備えた模範的な対応として映った。
一方で、ジェンメリアは違った。
彼女は倒れた人形のそばにしゃがみ込むと、安否確認と応急処置をほぼ同時に始める。
手を伸ばしながら、次の動きをもう考えている。
危うさはある。
だが、その迷いのなさと踏み込みの早さは、はっきりとした強みだった。
その大胆さに、全ての講師たちの視線が自然と集まる。
そして。
イザベラの視線は、少し離れた位置にいるテリカを捉えていた。
テリカは、他の候補生たちと比べて動きが遅い。
正確には、慎重だった。
一歩進むたびに、周囲と人形の位置を確認し、無理のない距離を選んでいる。
迷いはある。
だが、立ち止まらない。
確実に、一歩ずつ前へ進んでいる。
イザベラは、その様子を視線だけで追いながら、手元の端末に小さくメモを取った。
評価は声に出さず、しかし心の中でははっきりと形を持っている。
「判断力はまだ甘いが、学ぶ意欲は強い……。
将来性がある」
その呟きは、誰にも聞かれない。
だが、その一言は、確かにテリカの未来へ記録された。




