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 第2章 測られる日々  第6話 はじめての訓練 1/3

 

  第2章 測られる日々 

  第6話 はじめての訓練1/3


 訓練という言葉は、ここでは現実を和らげるために使われる。


 それがただの言い換えでしかないことを、候補生たちはもう薄々理解し始めていた。


 候補者たちは制服を整え、身につけた訓練用の装備を一つずつ確認している。

 革の留め具。

 金属の重み。

 身体に触れる布の感触。

 誰もが、これから始まる本格的な訓練に、胸の奥で小さな緊張を抱えていた。


 深呼吸を繰り返す者は、息を吐くたびに肩の力を抜こうとしている。

 淡々と装備を確認する者は、あえて感情を切り離すように指先だけを動かし、靴紐を結びなおす者は、結び目を強く引き、地面に立つ実感を確かめていた。

 装備の位置をチェックする者は、何度も同じ場所に手を伸ばし……。

 候補生の誰もが、各自のやり方で不安を押し込めていた。


 講師長マルコと数名の講師たちは、一段高い位置から訓練生全体を見渡すように、中庭へ続く階段の上に並んで立っている。

 

 今から、ただの生徒ではなく、聖女候補としての自覚を持たせる。

 そして、それは──。

 言葉にして伝えるものではない。


 そんな思いを表情に出さず、内心にとどめたまま、マルコは候補生たちを見つめていた。


 彼の視線は、一人ひとりを測るように移動する。講師たちの中で、マルコの目だけは少し違っていた。

 時折、可能性を見つめる柔らかさが混ざる。だが同時に、誰よりも冷たく、誰よりも鋭い。


 候補生たちは、その視線をはっきりと感じていた。


 見られている。

 評価されている。

 それでも、背を丸める者はいない。


 肩を正し、足を揃え、前を向く。

 逃げ場はないと理解した上で、一歩踏み出す。


 本格的な訓練の始まり。

 自分の力を試す……!


 それぞれが、そんな思いを胸の内に秘め、期待と不安が、同じ重さで混ざり合っていた。


 訓練場には、大小さまざまな障害物が配置されていた。

 倒れた壁を模した構造物。

 瓦礫を想定した箱。

 簡易の病人人形が複数置かれ、応急処置道具が整然と並べられていた。


 候補生たちは、その光景を一度だけ見回し、それ以上は目を泳がせない。

 それぞれ定位置につき、整列して講師を待つ。


 やがて、講師の一人が一歩前に出た。

 声を張り上げるわけでもなく、よく通る声で告げる。


「実技は三つ。

 まずは状況判断。

 次に応急処置。

 最後に協力作業だ。

 “聖女として動く”ように」


 短く、余計な説明はない。

 候補生たちは、それだけで理解した。ここでは“指示待ち”は評価されない。


 次の瞬間。

 校庭の景色が、魔法によって歪む。


 地面が揺らぎ、壁が立ち上がり、視界が一変する。整えられた訓練場は、災害が起きた街並みへと変貌した。


 初めて目にする光景の変化に、候補生たちの間から思わずどよめきが漏れる。

 現実味が、一気に押し寄せた。


 それを遮るように、教官の一声が落ちる。


「はじめっ!」


 合図と同時に、空気が切り替わった。

 訓練は、もう始まっている。


 


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