表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/47

 第2章 測られる日々  第5話 静かな評価(1/3)

 

 講師室の空気は冷静で、静かだった。


 厚い扉が閉められ、

 外の訓練場の音はここには届かない。



 窓から差し込む光が、

 机の上に整然と並べられた書類や

 記録用端末を淡く照らしている。



 光は紙の端や端末の縁に反射し、

 室内に規則正しい影を落としていた。


 

 



 机を囲むように、講師長マルコ、イザベラ、ラファエルの三人が席に着いている。


 それぞれが、今年の候補生の初期評価について話し合うためだ。


 イザベラは背筋を伸ばし、端末の画面を正面から見つめていた。

 指先でデータをなぞる動きは無駄がなく、表示された数値を一つずつ確認している。


「ビリジーナは、やはり数値が安定していますね」


 淡々とした声。


「身体能力、反応速度、集中力、全てにおいて標準以上。

 リスク管理の観点からも、高評価に値します」


 ラファエルはその言葉を聞きながら、机に置いた書類から視線を上げ、軽く眉を上げて頷いた。


 彼は数値を見る前から、彼女の動きや間合い、現場での空気の読み方に目を留めていた。


「数字だけでなく、現場感覚も悪くないな」


 短くそう呟き、納得したように息を吐く。

 ラファエルは続けて、別の名前に目を落とした。


「ジェンメリアは……うーん、警戒が必要だ」


 言葉を選びながらの口調だった。


「安定はしているが、突発的な行動の確率が高い。

 現場で扱うには注意が必要だな」


 イザベラは端末から目を離さず、すぐに返す。


「再現性の低い行動は、数値には表れません」


 一拍置いてから、画面を切り替える。


「ですから、テリカについては現段階では判断保留とします。

 さらなる観察が必要です」


 その言葉に、マルコはゆっくりと腕を組んだ。

 二人の意見を遮らず、聞きながら、全体統括者としての視点を頭の中で整理していく。


 数値。

 直感。

 現場での反応。


 それぞれが、別の真実を示している。


「この、三人の少し気になる人物……。

 それぞれ違った理由で、だな」


 低く、落ち着いた声。


「数値と直感だけで決めるのは早すぎる。

 だが覚えておこう」


 それは結論ではなく、保留という名の記録だった。


 会議は静かに進む。

 誰も声を荒げることはなく、端末の操作音と紙をめくる音だけが、時折室内に響いた。


 窓の外では、時間とともに光の角度が変わっていく。

 それと同じように、評価も日々少しずつ形を変えていく──。


 まだ確定はしていない。

 だが、候補生たちの運命の輪は、すでにここで静かに回り始めていた。


「本格的に動きの訓練もスタートします」


 イザベラが端末を閉じ、顔を上げる。


「午後も、しっかりと見届けましょう」


 その言葉に、マルコとラファエルが同時に立ち上がった。

 誰も口には出さないが、三人の意識はすでに次の訓練へと向いている。


 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ