第2章 測られる日々 第2話 三点しか与えられない
その日の実習は、屋外から始まった。
訓練校の裏手にある、囲われた広場。高い塀に囲まれ、外界の音はほとんど遮断されている。
土は長年踏み固められ、ところどころに黒ずんだ染みが残っていた。
乾ききらずに染み込んだそれが何であったかを、あえて説明する者はいない。
候補生たちが所定の位置に集合すると、マルコ、ラファエル、イザベラは、互いに視線を交わすこともなく静かに動いた。
三人は候補生たちの背後へと回り、半歩引いた位置で立ち止まる。その距離は近すぎず、しかし逃げ場を与えない絶妙な間隔だった。
同時に、一人の男が前に出る。
候補生たちの正面、広場の中央に進み出る形だ。
「模擬戦場実習を行う前に、事前訓練を行う」
指揮官役の教官が、短く告げた。
着ているのは軍務服。
マルコやラファエル、イザベラが身につけている“軍服のような制服”とは違い、実用一辺倒の装いだ。飾り気はなく、使い込まれた布地が彼の経歴を物語っていた。
今まで接してきた講師や座学の教官たちとは、明らかに雰囲気が違う。
声量は抑えられているのに、その場の空気が一段引き締まるのを、候補生たちは肌で感じた。
候補生たちは戸惑いながらも、教官の正面に整列して並ぶ。
誰かが小さく息を呑み、その音につられるように、数人の喉が鳴った。
緊張と、これから何が始まるのか分からない不安が、無意識に身体を硬くさせていた。
「これは演習前の事前訓練である」
教官は一拍置き、候補生全体を見渡す。
「しかし──。
これから行う判断は、実戦と同等に扱う」
その言葉に、背後のマルコたちが動く気配はない。
だが、確実に見ているという圧だけが、候補生たちの背中に突き刺さる。
「君たちの行動は、記録も評価も残る」
そう前置きしてから、教官は淡々と条件を提示した。
「あなた方は、後方支援の聖女候補だ。
負傷兵は五名。
使用可能点数は、三点」
三点……。
誰かが思わず視線を伏せた。
入校式当日に受けた座学で学んだ数字だ。
癒やし一回分。
その重さを、候補生たちは知識として知っている。
「開始」
短い合図と同時に、布で仕切られていた向こう側から声が響いた。
「痛い……。痛い……!」
「誰か……」
「助けて……」
呻き声。
そして、切迫した叫び声。
演技だ。そう頭では分かっている。
だが、耳に届いた瞬間、心臓が跳ね、身体が反射的に前のめりになるのを止められなかった。
担架に乗せられた負傷兵役の人形──
ではなかった。
本物の負傷兵だ。




