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 第1章 祈らない訓練校 第1話 神はあなた方を守らない

 


 いま、目の前には真新しい白と灰色の制服を身に纏った少女たちが列を作って並んでいる。

 柔らかく差し込む光を浴びて、広大な石造りの中庭を、緊張を胸の奥に抱きながら集まった少女たち。


 この校舎は、希望を抱く者たちの場でありながら、同時に選別の場でもある。

 講堂の先にある扉の向こう。

 そこは誰もが夢見る聖女の名誉を手に入れるための試練が待ち構えている。

 しかし、試練に耐える者がすべてを手にするわけではない。


 目に見える才能や力だけではなく、任せられる命の重さ、仲間と自らを守る判断力……。

 それらの目に見えぬ価値が、静かに未来を形作っていく。


 私は校長として、全てを見守る立場にある。記録は機械的に残るが、記憶は時により正確に真実を映す。


 生徒たちは、数字だけでは計れない光を放っていた。

 目に映るのは、彼らが歩み出す一歩一歩の確かさ。戸惑い。そして迷い。

 少女たちを導く者として。未来を知る者として。それをただ見届けることしかできない。


 静かに講堂を見渡す。

 列をなす生徒たちの背中に、これから訪れる試練の影が揺れている。


 しかし、私は知っている。

 この光の中で芽生えたものの中に、やがて希望となる炎が潜んでいることを。

 候補生たちの視線を受けながら壇上に向かう。

 彼女達の在校中に私が前に立つのは、これが最初で最後だ。


「──神は、あなた方を守りません」


 名乗る前に言う一言。この言葉に冗談だと思って笑い出す者が必ずいるが気にもせず続ける。


 彼女たちは知らなければならない。

 神は守らない。ここでは、それを前提として教育を行う。


「奇跡は保証されません。

 信仰は、免罪符になりません」


 彼女たちは聖女では、ない。『聖女候補生』だ。


「そしてこの学校は、祈る場所ではありません」


 この訓練校は、軍・行政・教会の合同管轄になっている。そして彼女たちの成績、使用履歴、判断内容は、すべて記録される。


 静かに続けた。


「民は、あなた方に希望を投影します」

「国家は、あなた方に結果を求めます」

「神は……沈黙します」


 『最後に』と言ったあと彼女たちを見渡した。ここにいる少女たちが抱いていただろう胸の内を早めに打破する。


「ここに来た理由を、勘違いしないように。

 あなた方が選ばれたのは、善良だからでも、信心深いからでもありません。

 “扱える可能性がある”と判断されたからです」


 少女たちは動揺と戸惑いの表情を浮かべた。

 

 これは入校式。

 祈りはなかった。

 祝福もなかった。

 拍手すら、なかった。


 彼女たちには、このあとに数々の座学と訓練が待っている。

 そこで彼女たちは、その理由を知ることになる。


 今回の候補生は23名。


 



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