第2章 測られる日々 第1話 評価は始まっている
窓からは、柔らかな朝の光が降り注いでいた。
白いカーテン越しに差し込むその光は、季節の移ろいさえ感じさせない、いつもと変わらないものだった。
訓練校の一日は、こうして何事もなかったかのように始まる。
校長室の机の上には、その年の訓練生たちに関する資料と報告書が、几帳面に積み重ねられている。
羊皮紙と端末が混在するその山は、数字と短い評価文で構成された、無機質な記録の集合体だった。
光に揺れる書類の端と、机に落ちる影。
それを前に、資料を手に取っていた校長の動きが、ふと止まる。
一行、視線を進めただけだった。
だが、その瞬間、思考は現在を離れた。
──遠い未来。
まだ形を持たない出来事。
記録として残る前の、選択と結果。
この年の候補生たちは、単なる数値や評価欄以上の何かを、必ず残すだろう。
記録に収まりきらず、それでも消えることのない“記憶”として。
校長は、資料をそっと机に戻した。
ため息をつくこともなく、表情を変えることもない。
それでも、その沈黙には、長くこの学校を見続けてきた者だけが知る予感が含まれていた。
訓練校の朝は、いつも静かに始まる。
鐘も鳴らず、劇的な変化もない。
候補生たちは同じ時間に起き、同じ廊下を歩き、同じ訓練場へ向かう。
だが、この学校での評価は、決して試験の場だけで決まるものではない。
結果より前の行動。
言葉にされない判断。
誰にも見られていないと思った瞬間の、立ち居振る舞い。
日常の些細な動作、他者との関わり方、目に見えぬ判断の積み重ね。
それら一つ一つが、未来を左右する分岐点の芽となる。
そこには、後戻りのできない選択の重みが潜んでいる。
そして、それを誰よりも早く感じ取るのは、候補生自身ではない。
講師たちの視線。
記録官の筆。
そして、机の上に静かに積まれていく報告書。
日々の小さな観察が重なり合い、やがて、候補生たちの運命は決定づけられていく。
静かに。
しかし、確実に。
評価は、すでに始まっている──
誰も気づかぬうちに。




