第1章 祈らない訓練校 第9話 始まりは、まだ静か
訓練が一通り終わる頃、講師たちは校庭の端に集まり、それぞれの観察結果を静かに整理していた。
マルコは深く息をつきながら、頭の中で今日の候補生たちの動きを反芻する。
「数字だけで評価してはいけない。ここで見るべきは“才能”ではなく、“任せられる命の数”だ」
視線はそれぞれの少女たちに向けられ、可能性と危険性が交錯する。まだ誰も最終的な評価を下す段階ではない。
しかし、胸に刻むべき印象は残しておかねばならない──。
それが統括者としての責務だ。
イザベラは端末の画面を確認しながら、記録の精度に満足そうに頷いている。
ラファエルは立ち上がり、直感に従いながらも慎重に観察ノートに走り書きをした。
三者三様の視点が交差し、議論は穏やかに終わる。
マルコは静かに立ち上がり、微かな微笑を浮かべた。
「焦ることはない。
この中に、きっと見極めるべき者がいる……。
だが、今はまだ、覚えておくだけで十分だ」
その時、講師たちの視線の先には、静かに訓練場を見つめる校長の姿があった。
彼女は低く、穏やかな声で言った。
「この年もまた、記録より記憶に残る子がいる年になりそうだ……。
いまは、始まりに過ぎない」
校庭に残る余韻の中、講師たちは次の訓練日を思い描きながら、それぞれの心に静かな決意を刻んだ。
* * * * *
「明日は8時集合。
早すぎは減点。遅刻は以ての外。以上」
その日は夜を迎える前に、簡単な今後のスケジュールと、寮生活についての説明と諸注意で解散となった。
候補生には一人一部屋の個室が与えられた。
各自の部屋で、候補生たちは決意する。
「私は……私なりの聖女を目指す」
そして少女たちは第一歩を踏み出した。
第1章 --終--




