第1章 祈らない訓練校 第6話 三つの視点
講義が終わると、神官と工学の女性も白衣の男同様に、無機質にその場を離れて行った。
午後からは基本的な訓練が始まるらしい。
候補生たちは少し長めの休憩をとり、校庭に集合を告げられる。
候補生たちは気持ちを切り替えるために、各自の心休まる場所へ向かった。
向かいながら礼拝堂の前を通る。扉は開いていて、静かだった。
膝をついて祈る候補生は一人もいない。
神は、遠い。
でも、無関係ではない。
そして祈りは、感情ではなく手順。
その理解が、候補生たちの胸の奥に静かに積もっていったのかもしれない。
校舎の奥にある講師室。重厚な木の扉の向こうでは、マルコ、ラファエル、イザベラの三人の講師が集まっていた。
今年の聖女候補生たちの顔ぶれを前に、静かに議論を交わしている。
「今年も、例年通り全員を把握しておく必要がある」
マルコは、机上に並べられた評価シートに目を落としながら呟いた。
眼光は鋭く、だが、その声は柔らかい。
全体を俯瞰し、命を任せられる人物を見極める彼の基準は、数字だけでは測れない。
彼は講師長でもあった。
「数値的には皆平均以上です、が……。
この子は、少し異質ですね。」
イザベラは冷静に評価表を指でなぞっていた。
彼女の視点は常に安全性と記録に向いている。
異常値や潜在リスクを見逃さず、事実と結果を重視する女性だ。
「直感だが、この子は目立つな……。
実戦で役立ちそうだ」
ラファエルは椅子に肘をつき、窓の外を見ながら言った。彼の判断は経験則に基づき、場面ごとの柔軟な対応力を重んじる。
数値よりも現場の反応を重視する性格が、この短い会話からも滲み出ていた。
マルコは二人の意見を聞き、しばらく黙考する。
「なるほど……。
数値と直感、それぞれだな。
しかし、重要なのは任せられる命の数だ。才能だけで決めるわけではない。」
言葉に含まれる重みは、三人の講師の視点を統合する軸となる。
会議が進むにつれ、三人の目に共通して浮かんだのは、ほんのわずかに異なる光を放つ数名の姿だった。
「……三人、少し気になる子がいるな。」
マルコが最後にまとめると、二人も小さく頷く。数字や直感の違いを越えて、確かな存在感を感じたのだ。
まだ誰も気づかぬ可能性、まだ開かぬ未来を、講師たちは静かに見定めていた。
窓の外には、陽の光を受けた訓練校の広場が広がる。
まだ何も知らぬ候補生たちは、これからの試練の中で光を放つ。
そして、闇を知ることになる──。
講師たちはその兆しを、すでに捉え始めていたのだった。
「さて、時間です。
行きましょう」




