第1章 祈らない訓練校 第5話 信じるな、理解しろ 3/3
誰かが、恐る恐る尋ねた。
「……神様の、都合が悪い時も?」
神官は声の主に視線を負ける事なく、
表情を変化させることもなく、
短く「ある」と、だけ答えた。
静まり返る講義室内を待っていたかのように、工学の女性は続ける。
「だから、祈りは練習します。
再現性を高めるために。
奇跡を、事故にしないために」
彼女は、実験台の上の装置を指差した。
水晶と金属線で組まれた、小さな枠だ。
起動させながら「これは、失敗例の記録器」と説明する。
すると、それは淡く光った。しかし、それだけ。
補足するように神官が言う。
「同じ祈り文でも『声量、間、精神集中度、立ち位置』全部で結果が変わる。
信仰心は、必要だ。だが、それだけでは足りない」
神官の声が、少しだけ低くなる。
「神は、奇跡を起こしてくれる存在ではない。奇跡を“許可する存在”だ」
許可……。聞いた単語が、ここでも形を変えて現れた。
工学の女性は候補生たちを見渡して、言葉を続ける。
「許可が下りても、実行するのは、あなた方です。
だから、祈りは技術。
磨けるし、失敗するし、壊れる」
最後の言葉では、二人は声を揃えた。
「信じるな、理解しろ」
そして講義が終わった。
神官と工学の女性も白衣の男同様に、無機質にその場を離れて行った。
午後からは基本的な訓練が始まるらしい。




