プロローグ
聖女──
その言葉を聞いたとき。
人はどんな像を思い浮かべるだろうか。
光に包まれた理想像。
誰もが信じたくなる救いの象徴。
しかしここに集う少女たちは
違う何かを胸の奥でひそかに感じている。
この場所は、聖女を育てる訓練校。
だが学ぶのは、称号でも栄光でもない。
見えぬ道を歩き、
選ばれぬ未来を知り、
日々の訓練で
その可能性を試される。
光の裏には
陰影と試練が
静かに横たわる。
廊下を歩けば
微かな魔力の振動が
耳に届く。
光の球が訓練場を転がり
少女たちの息遣いが重なる。
一挙手一投足を観察する講師たち。
外からは見えぬ何かが
確実に彼女たちの中で芽生え
形を変えていく。
聖女とは何か──
光の中で輝く者か
それとも光を背負う者か
ここで育つ少女たちは
知らぬ間に試され、
知らぬ間に選ばれ、
未来の軌跡を刻む存在となる。
扉の向こうで
新たな一歩を踏み出す少女たち
物語は、静かに
しかし確実に始まる
光と影の狭間で
誰も教えぬ試練の中で。
* * * * *
冬の朝の冷たい光が、訓練校の高い塔や石造りの廊下に淡く差し込んでいた。
私はその光景を静かに見下ろしながら、
まだ名も与えられていなかった彼女たちを思い出す。
あの年のことを──。
記録に残るほどの数字や評価は、ない。
心に刻まれた一瞬一瞬。鮮やかに蘇る年。
記録よりも記憶に残った年だった──




