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婚約者に浮気される私に必要なのは『愛される努力』ではなく『推し』らしい!  作者: 花果 唯


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第27話 真実

 

 ——ミレーヌが故郷を滅ぼした?


 困惑する私たちに、アラン様がミレーヌの能力を説明してくれた。

 それを使って魔物を誘導し、ミレーヌの両親だけではなく町の人々も命を落とすことになったのだと……。

 聞いていた全員が絶句した。


「ほ、本当なのか? 君が両親……故郷を……? そんな恐ろしいことを!?」


 顔が真っ青になっているセオドアが、恐る恐るミレーヌに尋ねる。

 その瞬間、ミレーヌはせきを切ったかのように怒鳴り始めた。


「うるさい! わたしは特別なの! だからあなたはわたしのものなの! そういう風に運命づけられているから、あなたはわたしを好きになったじゃない! 婚約者よりもわたしを選んだじゃない!」


 ミレーヌの剣幕にセオドアは思わず後ずさった。


「オ、オレはただ、君が可哀想で……優しくしてあげないといけないと思っただけだ! それなのに、こんな邪悪な人間だったなんて! オレは騙された!」

「騙してなんかない! わたしは『邪悪な人間』じゃないわ! 『ヒロイン』よ!」


 より一層怒気が強まったミレーヌに、セオドアは怯えて固まってしまった。

 まるで化け物を見るような目でミレーヌを見ている。

 そんなセオドアにミレーヌは詰め寄ろうとしていたが……。


「ヒロイン、ねえ?」


 アラン様のつぶやきを聞いて、ミレーヌは足を止めた。

 そして、ゆっくりとアラン様の方へ体を向けた。


「どうやって男になっているのか分からないけど……。あなた、神子でしょ」


 そう言って睨みつけてくる姿は魔物にように恐ろしい。

 私だけではなく、まわりにいる騎士たちもゾッとしている。

 だが、アラン様はそんな視線を向けられても飄々と返した。


「やっと気づいたんだ? 鈍いね」


 そう笑うと変身を解き、みんなの前でアマネ様の姿に戻った。

 ルシアン様とセオドアは目を見開き、騎士たちからもどよめきが起きる。


「神子様、本人が戦ってくださっていたのか……」


 アラン様が戦っている姿を、騎士たちは何度も目撃しているはずだ。

 自ら先頭に立ち、王都を守ってくださっていたことが分かっただろう。


 そして、ミレーヌはアマネ様の姿を見た瞬間、怒鳴り声をあげた。


「何なのよ! わたしが知らない力を使っちゃって! ずるい! あなたがヒロインだなんて認めない! デメリットシステム以外も、すべてわたしに寄こしなさいよ! それはわたしの力なんだから!」


 アマネ様に飛び掛かろうとするミレーヌを、すかさずネズさんが拘束する。


「あなた、召喚で呼び出された兵士でしょ!? わたしもシステムが使えるの! ヒロインなの!」


 大声をあげるミレーヌに、ネズさんは後ろ手を拘束したまま無反応でいたが……。


「あなたの本当の主人はわたしなの!!」


 ミレーヌがそう叫んだ瞬間、ネズさんがピクリと動いた。


「主人の言うことを聞——ああああっ!! 痛いっ!! 折れる!! 何をするのよ!!」


 アマネ様という絶対的な存在を否定するような発言は、ネズさんの逆鱗に触れたらしい。

 ネズさんはミレーヌを拘束している手に、容赦なく力を加えている。


「すみません。力加減を間違えてしまいました」


 痛みで悲鳴をあげるミレーヌに、ネズさんは淡々と答えながらも手を緩めない。


「離せって言ってるでしょ! ただのシステムが生み出した捨て駒のくせに、主人に従え!!」


 ミレーヌのこの叫びには、アマネ様が反応した。

 笑顔が消え、怒りのオーラが伝わってきた。


「ネズ、離して」

「はい」


 指示に従ってネズさんが手を離すと、騒いでいたミレーヌは地面に倒れた。

 べしゃりと無様に這いつくばってしまったミレーヌがすぐに起き上がろうとしたが、その顔面にアマネ様は剣先を突きつける。


「ネズの主人は私だ。お前のような人間は、何者の主にもなれない。魔物を操るのもおこがましい。自分を制御することもできない愚か者が戯言をぬかすな」

「ひっ」


 アマネ様の気迫にミレーヌは小さく悲鳴をあげる。

 周囲からも冷たい視線を浴び、硬直していたが……少しするとまたわめき始めた。


「うるさいうるさいうるさい! わたしがヒロインだああああ!!」


 地面に伏したまま、駄々っ子のように泣き叫ぶ姿は見苦しい。


「……まあ、何て醜い」


 ヴァンのつぶやきが耳に入ったようで、ぴたりと止まった。

 そして、ターゲットをヴァンに変更し、再びわめき始めた。


「あなたはヴィクトリアね……あなたの役割は『悪役令嬢』でしょ! どうしてヒロインと仲良くしているのよ! そうよ……きっとあんたのせいでシステムがおかしくなったんだわ!」

「はい?」

「あなたのせいでエラーが起きたのよ! 全部あなたのせいっ!!」


 無茶苦茶ないちゃもんをつけ始めたミレーヌに、ヴァンは元の姿に戻って優雅に微笑んだ。


「それはごめんあそばせ」


 美しい笑みで見下すヴィーに、ミレーヌの顔は怒りでどんどん歪んでいく。

 言葉にする余裕もなくなったのか、「ああああっ!」と獣のような叫び声をあげるミレーヌとは対照的に、ルシアン様は無言で固まったままヴィーをみつめていた。

「ヴィクトリア……」とつぶやいたが、ヴィーは「嫌いなものを見るのは心の健康によくないわ」と言ってミレーヌとルシアン様から体を背けた。


 騎士たちはヴァンの正体にも驚いている様子で、セオドアも大きく目を見開いていた。

 そして、次第に周囲の目は私にも向けられるようになり、「あの男も女性が姿を変えているのではないか?」などという声が聞こえ始めた。


 それが聞こえたのか、ミレーヌはハッと起き上がると、私に向けて怒鳴り始めた。


「お前はセオの婚約者……ルクレティアね!? そうでしょ! セオをわたしに取られた腹いせに、そいつらに協力してるんだわ! セオは元々わたしと一緒になる運命なの! 大人しく消えていなさい! あなたは悪役令嬢といっても『その2』、モブのようなものなんだから!」


 そう叫ばれたのを受け、私もみんなの前で元の姿に戻った。


「ルー……」


 ルシアン様や騎士は、驚くのも三度目ともなれば絶句していた。

 私だと気づいていたセオドアも、久しぶりに見る姿を複雑そうに見ている。

 忌々しげに私をみるミレーヌを見据えた。


「腹いせなどではありません。今、私がここにいるのは、大好きな人たちと一緒にいたいからです。ですから、あなたにとやかく言われる筋合いはありません」


 堂々と胸を張って応える私に、ミレーヌはたじろぐ。

 言いたいことを言えてすっきりしていると、アマネ様とヴィーが両側から腕を掴んできた。


「ルル、かっこいいぞ! 僕も大好き!」

「わたくしも! 幼い頃からずっとよ! それに……ルーはあなたと違って、ゲーム的にも重要なキャラよ?」

「ああ。お前、あんまりゲームをやってないな?」


 ニヤリと笑うアマネ様の指摘が合っているのか、ミレーヌは悔しそうに歯ぎしりをしている。


「ルーは精霊に愛され、大精霊の恩恵も受けることができるレアな仲間。そして、わたくしたちの親友よ!」


 二人が私を大切に思ってくれているのが伝わってきて、嬉しさが込み上げたそのとき、ミレーヌが吠えた。


「それが何だって言うのよ! 似たような境遇の女が徒党を組んだだけでしょ! ははっ、馬鹿みたい!」


 友情をあざ笑うミレーヌに、二人は冷たい視線を向ける。


「助け合える仲間がいるというのは、とても尊いことよ。あなた、今ピンチよね? 助けてくれる人はいるのかしら?」

「うるさい! わたしだって……わたしだって……!!」


 ヴィーの言葉に唇を噛みしめたミレーヌが、震える視線を向けた先にいるのは——。


「……セオ!」

「も、もうオレに構わないでくれと、ずっと言っていたじゃないかっ!」


 救いを求めたはずなのに、返ってきたのは悲鳴にも似た拒絶の声。

 セオドアの顔は怯えと混乱に歪み、突き放すように顔を背けた。

 その瞬間、ミレーヌの中で何かが音を立てて崩れた。


「あ……ああああああ!! ふざけるなあ!! わたしはヒロインだああああっ!!」


 叫びとともに、ミレーヌはセオドアへと掴みかかった。

 その姿は、もはや理性のかけらもなく、魔物のようだった。


「こ、この女を連行しろ!」


 ルシアン様は異様なまでに錯乱したミレーヌに怯え、顔を引きつらせながら騎士たちへ命じた。


「はなせ! セオ! 助けてセオ!」


 騎士たちに取り押さえられ、連行されているあいだもミレーヌは何度もセオドアを呼び続けた。

 そのたびに、セオドアの表情は苦しげに歪むんだ。


 その光景を見て、私はこんな二人にないがしろにされていたのかと、空しい想いに襲われたのだった。

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