第15話 新たな住人たち
ノクトさんが小人たちと一緒に推し活ハウスにやってきた。
空いている部屋はたくさんあるのに、彼らは一部屋で仲良く過ごしている。
人をポンコツにするクッションが気に入ったようで、みんなで固まって眠っているのを見てほっこりした。
小人たちに服を作ってプレゼントしたところ、とても喜んでくれた。
そしてノクトさんにも服を作り、髪や身なりを綺麗にさせて貰ったのだが……初めて自分の才能が恐ろしいと思った。
髪はあまりなくなると落ち着かないというので肩甲骨の辺りで整え、一まとめにした。
背が曲がって小さくなっていた背丈も、背筋が伸びて私よりもかなり高くなった。
ヒゲもなくなって清潔感があるし、何より美しい深い緑色の目が見えて綺麗だ。
瞳の中に薄っすら縞模様があって、まるで孔雀石のよう――。
細身の凛とした麗しさがある男性なので、刺繍の入ったリネンの白シャツとズボンを身に纏ってもらったら……『王都一美しい紳士』の爆誕である。
知的でスマートな男性になったのだが、小人たちが「誰!?」とザワザワしていたのでおもしろかった。
年齢はまだ四十歳くらい……少し若くなったかも? という程度の変化だが、数日でさらに血色がよくなって体に肉がついてきているのでよい傾向だと思う。
小人たちが庭で遊んでいる中、私たち三人にノクトさん、そしてネズさんを加えた五人が談話室に集まっていた。
アマネ様とネズさんから魔物の討伐状況などの話を聞いて、情報共有をしていたのだ。
ひと段落したところで、新聞を読み始めていたヴィーが思い切り顔を顰めた。
「汚いわ」
嫌悪感いっぱいの、汚物を見るような目で新聞を睨んでいる。
「どうしたの?」
「ヒゲよ。目が穢れたから壁の等身大フィン様を見て浄化しましょう」
先日私が描きあげたフィン君の絵を見ながらヴィーが渡してきた紙面には、王太子ルシアン様の写真が載っていた。
とても疲れている様子で、ヒゲも濃くなっている。
文章を読むと、ヴィーへの一方的な婚約破棄やアマネ様から絶縁されたことで、ルシアン様への不信感が高まっていることに加え、魔物討伐に関して騎士団が役に立っていないことを危惧する内容が書かれていた。
また、アマネ様やヴィーを捜索していることも載っている。
他にも新聞には、アマネ様がどんどん作っている塔や壁などの『防衛設備』についても特集されていた。
黒衣の兵たちについても取り上げられていて、ネズさんの写真もあり、『神子の目隠し部隊』などと報じられている。
「いいね、この写真! ネズ、かっこいいじゃん」
「恐縮です」
「記念に残しておこう」
いつも通りの無表情なのに、また喜びが伝わってくる。
主従の尊い瞬間はいくらあったっていい。
「男装の僕たちも、新聞で話題になっているね。増加傾向にある魔物を王都に侵入させない守護者、だって。かっこいい!」
『彼らは神子様の防衛設備などに現れる。そのため、神子様に従う者たちだと思われるが、その正体は一体――!? この美男子たちは、王太子の婚約を断った神子様の本命か?』
……なんてことも書かれている。
まさかアマネ様本人だとは分からないだろう。
「あら、こんなところにセオドアも載っているわよ」
ヴィーに言われて見ると、王都を巡回している騎士たちの写真の中にセオドアがいた。
「『ワイバーンを倒した英雄』と一面でもてはやされた男が、モブの一人になっているなんて落ちたものねえ……あ」
「どうしたの?」
再びヴィーが指差すところを見ると、巡回中のセオドアの近くにミレーヌがいた。
「あの病弱詐欺不幸自慢女、こんなところまでいるのね。邪魔でしょ」
女性同伴で巡回なんて騎士団が許可をするわけないし、勝手にしているのだろうか。
そんなことを考えていると、アマネ様が新聞を覗いてきた。
「そういえばこいつ、ちょっと教会で特別視されてるよ。教会で一度みかけたんだ」
「特別視? どうして?」
「分かんない。詳しくは知らないけど、上の立場のやつがやけに丁寧に対応してたんだよね」
故郷が魔物のせいで滅びたから、何かケアを受けているのだろうか。
「ミレーヌってゲームでは出てこないわよねえ?」
「うん。だから重要視してないけど、なんか気になるんだよねえ」
私たちの目的は二度ある強い魔物の襲撃から王都を守ること――。
だから、ミレーヌは少し気になるが、すぐに何か対応する必要はないだろう、ということになった。
「ところで……わたくし、とっても悩んでいるの」
クッションに凭れて、天井をみつめながらヴィーが話し始めた。
アマネ様とノクトさんは、私が焼いたクッキーを食べながら耳を傾ける。
「やっぱり、どうしても欲しいの……『推しのアクスタ』」
「え、欲しすぎる!! 切実に!!」
「『アクスタ』ってどういうものなの?」
前のめりになるアマネ様の隣で私は質問した。
「透明な板に推しの写真とかイラストが描かれているものよ。それがあれば推しと一緒におでかけできるの!」
「プラスチックの代わりになるものを探さないと……!」
『プラスチック』が分からない私はまた頭にハテナを浮かべていたのだが、一緒に話を聞いていたノクトさんが声をあげた。
「水晶で作ることができるんじゃないか? もしくは、俺たちが住んでいた森にいる菌糸魔物の『グラスモールド』を倒してドロップできる『モールドジェル』で作ればいいと思う。透明で熱を与えると変形するから加工しやすいぞ」
「ノクト! 君は天才だ……!」
「そうか」
何とも思っていない様子のノクトさんの背後で、ネズさんがちょっと悔しそうだ。
「よし、グラスモールドを狩りまくるわよ! ルー! 立ち絵のイラストをお願いしていいかしら!」
さっそく行動するらしく、立ち上がったヴィーがこちらを見た。
「写真の方がいいのでは?」
「馬鹿言わないで! 両方必要に決まっているでしょう!」
同じく立ち上がったアマネ様も「うんうん」と頷いている。
「分かったわ。任せて」
「あ、ルル! デフォルメバージョンもお願い!」
「じゃあ、なるはやで帰ってくるから! 行ってくるわね~!」
二人はすぐに男性の姿になると、風のように消えて行った。
『なるはや』って何? と聞きたかったけど間に合わなかったなあ。
ネズさんも防衛施設の様子を見てくると言ってから、いつの間にか消えていたので部屋には私とノクトさんが残った。




