第14話 変なやつら(※ノクト)
俺は魔力が高かったため、生まれてすぐに教会に引き取られた。
本来なら両親が育てるという選択肢もあったはずだが、彼らは一年分の生活費と引き換えに俺を差し出したのだという。
一度だけ、「親だ」と名乗る男女が面会に訪れたことがあった。
だが、話しかけられても俺は何も答えなかった。
人と話すことなんて滅多にないから、何を言えばいいのか分からなかったのだ。
黙って彼らを見つめていると、それきり二度と現れることはなかった。
教会での暮らしは衣食住に困ることこそなかったが、「人間らしい生活」と呼べるものではなかった。
俺に課された使命は、教会に設置された魔道具へ魔力を供給し続けること。
毎日、魔力を搾り取られ、意識が飛びそうになるまで使われる日々――。
上の者に気に入られた子どもたちは良い食事を与えられ、きれいな服を着せてもらっていた。
だが、感情の乏しい俺は気味悪がられ、「人」ではなく「道具」として扱われていたように思う。
同じような境遇の子どもたちからも距離を置かれ、俺はいつもひとりだった。
孤独すら感じない無感情な時間が流れるだけの日常。
そんなある日、教会の地下に閉じ込められていた小人たちに出会った。
彼らは森の妖精に近い種族で、教会の聖花に魔力を注ぎ育てるために捕らえられていた。
小人たちは、魔力を失うと命を落としてしまう。
実際に力尽きた小人たちの亡骸が山のように積まれ、次々に焼かれていく光景を目にして……俺の中で薄れていた感情が一気に爆発した。
俺もいずれ、こうやって『廃棄』されるのか?
この子たちも、この先ずっと……?
そう思った瞬間、迷いはなかった。
残された小人たちを連れ、俺は教会を脱出した。
教会の追っ手を退けながら森へと逃げ込み、自分たちが身を寄せ合って生きられる場所を作った。
だが、その頃には俺の魔力は完全に枯渇していた。
生命力までも削られていたらしく、急激な老化が俺を襲った。
鏡に映る自分の変わり果てた姿を見て恐怖を感じた。
けれど、誰からも支配されず、小人たちと自由に暮らしていることを思えば平気だった。
ただ、最近になって森に魔物が増えている気配がある。
俺の命がどうなろうと構わない。
だが、小人たちの未来だけは守りたい。
残りの命をかけて、小人たちが生きる道を用意しよう。
変なやつらが現れたのは、ちょうどそんな時だった。
小人たちは生まれた場所に咲いていた花の色になる。
魔力を搾取されたことで枯れていたが、彼らが根源となる色を取り戻したのを見て呆然とした。
こんな奇跡が起こるとは……。
そしてクッキーを口にして衝撃を受けた。
「なんて……優しい味なんだろう」
思えば、「お菓子」というものを食べたのは初めてだった。
教会では固いパンと具のないスープばかり、小人たちとの暮らしでも果実や焼き魚ばかりだった。
果実とは違う、やわらかくて優しい甘さ――。
その一口に、胸の奥から何かが込み上げてきた。
俺は人間には興味もなければ、信用もしていない。
だが、あの愉快な女たちには、なぜか疑いの気持ちが湧かなかった。
関わってみたい――そんな風に思ったのは、生まれて初めてだ。




