表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約者に浮気される私に必要なのは『愛される努力』ではなく『推し』らしい!  作者: 花果 唯


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/31

第14話 変なやつら(※ノクト)


 俺は魔力が高かったため、生まれてすぐに教会に引き取られた。

 本来なら両親が育てるという選択肢もあったはずだが、彼らは一年分の生活費と引き換えに俺を差し出したのだという。


 一度だけ、「親だ」と名乗る男女が面会に訪れたことがあった。

 だが、話しかけられても俺は何も答えなかった。

 人と話すことなんて滅多にないから、何を言えばいいのか分からなかったのだ。

 黙って彼らを見つめていると、それきり二度と現れることはなかった。


 教会での暮らしは衣食住に困ることこそなかったが、「人間らしい生活」と呼べるものではなかった。

 俺に課された使命は、教会に設置された魔道具へ魔力を供給し続けること。

 毎日、魔力を搾り取られ、意識が飛びそうになるまで使われる日々――。


 上の者に気に入られた子どもたちは良い食事を与えられ、きれいな服を着せてもらっていた。

 だが、感情の乏しい俺は気味悪がられ、「人」ではなく「道具」として扱われていたように思う。


 同じような境遇の子どもたちからも距離を置かれ、俺はいつもひとりだった。

 孤独すら感じない無感情な時間が流れるだけの日常。

 そんなある日、教会の地下に閉じ込められていた小人たちに出会った。


 彼らは森の妖精に近い種族で、教会の聖花に魔力を注ぎ育てるために捕らえられていた。

 小人たちは、魔力を失うと命を落としてしまう。


 実際に力尽きた小人たちの亡骸が山のように積まれ、次々に焼かれていく光景を目にして……俺の中で薄れていた感情が一気に爆発した。


 俺もいずれ、こうやって『廃棄』されるのか?

 この子たちも、この先ずっと……?


 そう思った瞬間、迷いはなかった。

 残された小人たちを連れ、俺は教会を脱出した。


 教会の追っ手を退けながら森へと逃げ込み、自分たちが身を寄せ合って生きられる場所を作った。

 だが、その頃には俺の魔力は完全に枯渇していた。


 生命力までも削られていたらしく、急激な老化が俺を襲った。

 鏡に映る自分の変わり果てた姿を見て恐怖を感じた。

 けれど、誰からも支配されず、小人たちと自由に暮らしていることを思えば平気だった。

 ただ、最近になって森に魔物が増えている気配がある。


 俺の命がどうなろうと構わない。

 だが、小人たちの未来だけは守りたい。

 残りの命をかけて、小人たちが生きる道を用意しよう。


 変なやつらが現れたのは、ちょうどそんな時だった。


 小人たちは生まれた場所に咲いていた花の色になる。

 魔力を搾取されたことで枯れていたが、彼らが根源となる色を取り戻したのを見て呆然とした。


 こんな奇跡が起こるとは……。

 そしてクッキーを口にして衝撃を受けた。


 「なんて……優しい味なんだろう」


 思えば、「お菓子」というものを食べたのは初めてだった。

 教会では固いパンと具のないスープばかり、小人たちとの暮らしでも果実や焼き魚ばかりだった。

 果実とは違う、やわらかくて優しい甘さ――。

 その一口に、胸の奥から何かが込み上げてきた。


 俺は人間には興味もなければ、信用もしていない。


 だが、あの愉快な女たちには、なぜか疑いの気持ちが湧かなかった。


 関わってみたい――そんな風に思ったのは、生まれて初めてだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ