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婚約者に浮気される私に必要なのは『愛される努力』ではなく『推し』らしい!  作者: 花果 唯


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第12話 攻略対象

「アマネ、ゲーム進行はどんな調子かしら。ポイントは足りている?」


 私の心臓のため、二人には変装を解いて貰った。

 クッションのまわりに座り、落ち着いて話を始める。


「ポイントはもっと欲しいけど……ある程度、『防衛塔』も『壁』も作ることができたし、順調ではあるよ。自分でもポイント稼ぎを色々やっているしね。とりあえず生産方面では畑と漁場を作ったし……。まあ、今は木がいっぱいあるから何とかなるよ。防衛系は丸太さえあったら序盤はうまくいくものさ!」

「金鉱を作るときはわたくしの家の領地にしてくれないかしら」

「対象エリア内かな? まあ、やってみるよ」


 私は理解できないけれど……とにかく順調らしい。


「主要キャラの『パラメーターアップ用のポイント』って他に流用できないの?」

「そうなんだ。もったいないけど浮気者たちを育てるのは嫌すぎる。でも、攻略対象はもう一人いるんだよね……」


 浮気者たちというのはルシアン様とセオドアのことだ、と察することができたけれど……パラメーターアップ?


「あ、僕は攻略対象者の能力を上げることができるのに、その力を使う対象がいないからもったいない、って話ね」


 話についていけない私のために、アマネ様が説明をしてくれた。

 そんな神様みたいなことができるなんて、本当にアマネ様は神子なのだなあと改めて思う。


「攻略対象というのは?」

「神子と恋愛関係になる運命を持っている人、のことよ」

「なるほど」

「ルシアン様とセオドアの他にも、攻略対象はあと一人いるんだ。その子は仲間にしてもいいと思っているんだけど……どうかな?」

「男性をここに招くのは嫌だわ。わたくしたちだけもいいのではなくて?」

「そうなんだけど……。残りの一人は、ある程度関係値を作ると生産系に補助効果がでるんだ。序盤は特に助かるから、友達くらいにはなったらどうかなって。ルルの効果と相性がいいしね」

「ルーが作ったものが、さらにいい効果を生むようになるってことね」

「そう。それに不憫な境遇の人だから、手を差し伸べてあげたいんだよね」

「あー……」


 アマネ様の言葉に、ヴィーは思い当たることがある様子だ。


「裕福なルシアン様やセオドアとは違って、つらい生い立ちの攻略対象だったわね。いいわ、仲間に誘いましょう。ルーもそれでいい?」

「もちろん」


 私は状況があまり分からないし、二人が決めたことには反対しない。

 それにつらい思いをしている人を助けてあげられるなら、とても良いことだと思う。


「じゃあ、さっそくスカウトに行こう! おじいちゃんを!」

「……おじいちゃん?」






 家をでるので、二人は『アラン様』と『ヴァン』になる。

 私は今回もストールを巻いた。


「ルーも変装した方がいいんだけど、この指輪は二つしかないんだ」

「でも、材料が集まれば作ることができるから待っていて頂戴」

「私も男性に変身することができるの? 楽しみにしているわ!」


 自分ならどんな姿になるのか、とてもわくわくする。


「あ、そういえば玄関の近くの木に可愛いオブジェがあったわ。ルーが作ったものよね?」


 外に出るときに、ヴァンがそう声をかけてきた。


「もう気づいてくれたの?」

「ここをみつからないように隠している魔法が強化されていたからびっくりしたわ。きっと精霊のおかげね。さすがルー!」


 気づいたことも、褒めてくれたことも嬉しい。

 私には分からないが、ちゃんと成果を出せていたようでよかった。




 攻略対象がいるという森の中にやってきた。

 それぞれ馬に乗って移動している。

 アラン様とヴァンの懐には、私が作った推しぬいぐるみがいる。


「推しと一緒におでかけできるのは楽しいなあ!」


 美男子の二人の懐からひょっこりとぬいぐるみが顔を出しているのはシュールだけれど、それもまた素敵だ。


「ルクレティア様、大丈夫ですか?」

「ええ。気にかけてくれてありがとう」


 今回はアマネ様の従者も一緒で、サポートとしてついてきてくれている。

 彼はアマネ様が神の能力で生みだされた『人ならざるもの』で、防衛塔などで魔物を倒している兵たちもそうだ。


 付き添ってくれている彼はアマネ様が最初に生み出した個体で、『ネズ』と名付けられている。

 『兵士』なのだが、アマネ様の世話や兵の統率など、様々ことを任せているそうだ。


「名前は干支のネズミから取ったんだよ」と聞いて、ネズミと呼ばれているようで少し可哀想に思えたが、ヴィー曰く「子宝の象徴だし縁起がいい」ということだった。

 本人も名前を貰ったことを誇りに思っているようなので、余計なことを言わなくてよかった。


「動物を良く見るわね」


 まわりに目を向けていたヴィーがつぶやいた。

 草むらの方を見ると、うさぎやシカ、オオカミやクマなどいろんな動物がこちらを見ている。

 草食動物と肉食動物が一緒にいる不思議な光景だ。


「もしかして、ルルのところに精霊が寄ってきているのかな。動物は精霊が好きだから、つられて出てきたのかも」


 え、私? と名前を出されて驚きつつ、私のまわりでたくさんの羽音がしたので頷いた。


「たしかにいっぱいいるわね。……虫が苦手なヴァンは見えなくて正解かも」

「虫? もしかして、この蛾のようなものが精霊ですか?」


 そういうネズさんの視線の先にいるのは、たしかに蛾のような精霊で驚いた。


「そうよ。私以外の見える人に初めて会ったわ」

「ネズ、そうなのか? 初耳だぞ!」

「申し訳ありません。精霊だと認識しておりませんでした」

「謝ることじゃないよ。頼めることが増えたかも? 精霊が見えるなんてすごいなあ」


 褒められたネズさんは無表情だが、嬉しそうなオーラが伝わってくる。

 ネズさんはじめ他の兵士たちも、主人であるアマネ様を慕っているのが分かる。


「でも、ルクレティア様には親愛的ですが……私に対しては無関心です」


 精霊たちに注目していたネズさんが報告する。

 さっきから蝶やテントウムシのような精霊が私の肩に止まったり、まわりをくるくると飛んでいたりするが、ネズさんには何も反応していない。


「ネズは人間じゃないからかなあ」

「…………」


 アマネ様の言葉がショックだったのか、ネズさんは少し寂しそうに見えた。


「こら、アマネ。そういう言い方はあまり感心しないわよ?」

「あ、ごめん。でも……うん」

「……ゲームのデータだと思い込まないと、やっていけない気持ちは分かるけどね」


 ネズさんには聞こえないような声で、ヴァンがぽつりと零した。

 それにアマネ様は寂しそうな笑顔を返している。

 私には理解できない事情があるのかもしれない。


「ご主人様の興味が湧くような現象が起こらなかったことが残念なだけですので、私のことはお気になさらず」


 自分のことよりも、すかさずアラン様のフォローをするのはさすがだ。

 私とヴァンは顔を見合わせて苦笑いだ。


「ついた。ここだよ」


 アラン様が馬を止めたのは、高い木々に囲まれてほの暗い場所だった。


「……洞窟?」


 家が入りそうなほど大きな穴が置く深くまで続いているのが見える。

 ここが巨大な洞窟の入り口のようだ。

 不気味だなと思っていると頭上に何か通った。

 ほの暗くあまり見えていなかった足元がさらに暗くなる。

 何事だと見上げると、恐ろしい生き物が空から降りてきた。

 一年ほど前に見た、あのときの記憶が蘇ってくる――!


「ワイバーン!? まだ存在していたの!?」


 痕跡も気配もなかったのに!

 突然現れたワイバーンと対峙して血の気が引いた。

 すぐに始末しないと……!

 私は弓を構え、ワイバーンの急所の一つである腹部の中央を打ち抜いた。

 ここなら鱗や外皮の防御が低いうえ、内臓が集中しているから大きなダメージを与えられるはず――あれ?


「げ、幻影だった?」


 みんながぽかんと口を開けている。

 実体がないのに騙されて攻撃したから呆れられたのかも……!

 恥ずかしくて顔がカーッと赤くなった。


「す、すごいね、ルル……。僕たちが守らなくても全然いけるじゃん」

「さすがワイバーンを仕留めただけあるわ……きっと精霊も加勢しているのね……」

「素晴らしい殺傷能力です。称賛に値します」


 呆れられたようではないけれど、過剰に褒められて余計に恥ずかしくなった。

 そういえば、大きくなってからセオドア以外の人の前で弓をつかったのは初めてだった。

「バレちゃった……やばい人にみつかっちゃった!」

「こわいよー!」


 ワイバーンが見えた奥の方から、幼い子どものような甲高い騒ぎ声が聞こえてきた。


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