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Chapter5:宝物の地図 中編


「……うつのみや?」


 聞きなれない弥一の言葉に、思わず聞き返す。


「そ! 宇都宮。地名だね、海底のだけど」


 地図を見て、パチンと指を鳴らした弥一が得意げに言った。

 日頃から自前の潜水艦で海中を徘徊しているだけあって、コイツは海底の地理には無駄に詳しい。対して、こっちからしてみれば海底に沈んだ土地の地名なんて知ったことじゃない。


「それで? そこに何があるのさ?」

「ん? いや、知らん」


 事の経緯をざっくりと弥一にも説明する。

 とはいえ、何をどこまで言っていいものかもわからないし、必要以上に語りすぎないように意識もした。

俺が他のクラスの生徒から依頼されて、父親の形見である記録媒体のロックを解除したこと、そしてその中からはこの地図が出てきたこと。弥一に説明したのはせいぜいそんなところだ。


「まぁ、ロック自体は解除したし、これで頼まれ事は終わりかな」


 ひとまず、今回の事でわかった事があった。

 まず『略式化』は応用が利きそうで使いやすい。これなら、大概の電子ロックはキューブ状に置換できるし、俺からすればホタルの出してくるキューブなんかよりはるかに容易に揃えられる。

あれに関しては、おそらくホタルの自衛プログラムが高頻度でパスロックを更新し続けているせいで十数秒毎にキューブがスクランブルされてしまうが、逆に言えばそう言ったシステムが無い物なら、普通のルービックキューブを揃えるのとさほど手間は変わらない簡単な作業だ。


「……あのさ、カイト? まさかとは思うけど、気にならないわけないよね?」

「ん、何が?」

「いやいや何が、じゃなくてさ! 何があるのか気になるでしょって!」


 声を荒げた弥一は両の手を机について、顔を突き出してくる。

 正直な所を言えば、俺としては本当に別にそれほど気になってもいない。GPSらしき反応がある以上、そこに何かがあるのは間違いないだろうけど、それほど好奇心を掻き立てられるかと言われれば怪しい。

そもそも、コイツは無条件にそういう謎めいたものが大好きだろうが、俺は全然そうじゃない。何があるのか分からないよりも、むしろ予めそこに何があるのか分かっていた方が関心も傾くというものだ。重要なのは期待よりも実益だろう。


「ともかく、俺のやることはここまで。この地図を虹村さんに渡してそれでこの話は終わり」


 そう言って強引に話を切ると、それと丁度重なるように予鈴が鳴り、弥一が不服そうに口をつぐむと、まもなくして授業が始まった。

授業中、最近予習したばかりの部分を教師が板書する。

それを見て、ふと考えてみれば最近は勉強に割ける時間はかなり減っていた。それもこれも……


「——マスター! マスターの脳波から悪意を検知しました! 何かありましたか?」


 頭の中に直接聞こえてくる声に「別になんでもない」と返すと、頭にハテナを浮かべたように間の抜けた声が返ってくる。

 別に邪険に扱っているつもりは無いが、ホタルを拾ってからかなりの時間をコイツのキューブの為に使っている。それが重要の事だとはわかっていても、『人類のため』という大義はあまりに大きくてやっぱり実感が沸かない。例えば、明日世界が滅ぶとして……果たして、何がどうなってどういう過程で世界が壊れるのかを想像できないように、目でも捉えられない宇宙生命体の脅威なんて、実際に海羽の件を経た今でも現実味が薄く感じてしまう。


 でも、わかっている。確かに脅威は身近に存在していて、気付かないふりをしていてもいずれは目を背けられない日が来る……。


 授業も全てを終え、放課後。

俺は預かっていた物を返しに虹村さんのいる教室へと赴く。俺からすれば、自分からよその教室に出向く事なんてほとんどない。

教室の入り口で適当な生徒に声を掛けて、目当ての人物を廊下に呼び出してもらう。


「え、もう出来ちゃったんですか?」


 昨日の今日で驚くのも無理は無いか。

 目を丸くした虹村さんに、俺は預かっていた記憶媒体を返して、中に入っていた地図の事を伝える。


「海の底……ですか。それなら、仕方ないですね。業者にサルベージを依頼するのもそれなりにお金が掛かりますし……」


 話を聞いているとどうやら、諦めるらしい。

 まぁそれもそうか。そもそもお金に変えられそうな物がないかという父親の遺品整理。それに金を掛けてしまっては本末転倒だろう。


「それじゃあ、俺はこれで」

「はい。あの、ありがとうございました」


 そうして、双方の納得で話が終わろうとしたその時。


「ちょっと待ったぁー!」


 聞き覚えのある大声が割って入ってくる。

 後ろを振り向くまでも無く、声の主が誰かはわかりきっていた。弥一だ。

 弥一はすかさず俺と虹村さんの間に入って話に割り込んでくる。


「ねえ虹村さん、そのサルベージさ、ボクが協力してあげるって言ったらどうする?」

「え……な、なんですか急に」

「もちろん、お金の心配はいらないよ? 僕の自前の潜水艦で、なんなら三人で行こうよ」


 突然の事に、虹村さんは助けを求めるようにこっちにアイコンタクトを送ってくる。

 仕方なく、虹村さんには弥一の事を簡単に紹介して、地図を少しだけ見せてしまった事を伝えた。


「話は分かりました。でも島崎さんには何のメリットも無いように思えますけど……」

「いやいや、そんな事無いよ? ていうか、地図だけ見せられて何があるかも確かめないままの方が、気になって夜も眠れないって」


 そう……。わかっていたがこいつはこういう奴だ。

 好奇心というか探求心というか、とにかくありとあらゆる気になったことすべてに目が無い。その結果が、趣味の海底漁りだ。挙句に自前の潜水艦持ちとは、金持ちのボンボンなだけある。


「えっと、じゃあその、よろしくお願いします」


 結局虹村さんは相談の末、それならばと弥一の提案を吞んだ。まぁ彼女からすれば無償で請け負ってくれるならこれと言ってデメリットも無いだろう。

 ただ…………。


「なぁ弥一」


 俺に至っては違う。


「ん~? どうしたのさ、カイト」

「別にお前の好きにすればいいんだけどさ。さっき、なんなら三人で行こう、って言わなかった? ……まさかとは思うけど、俺の事頭数に入れてないよな?」

「なに言ってるのさ。入れてるに決まってるよ」

「え、いやだよ。面倒臭い」


 当然、断固拒否する。俺は弥一と違って、別に地図の場所に何があるのかなんて気になってもいない。


「あの……出来れば千里君にも一緒に来てもらえると……。その、私、島崎君とは初対面ですし……」

「え……まじ?」


 俺がそう聞き返すと、彼女は小さく頷いた。


「…………。はぁ、わかった」


 想定外の流れだけど、虹村さんの事を思えば致し方ない。

 俺と虹村さんは、仲が深いわけではないが一応去年までクラスメイトだったという関係性がある。対して、弥一と虹村さんはと言えば、知り合いの知り合い、その程度の関係でしかない。

 物静かな深海の底に、そんな他人同然の二人。気まずくないはずも無い。

 いわゆる、乗りかかった船か。何より、弥一が出張ってきたのは俺の落ち度でもあるし、虹村さんに迷惑をかける訳にはいかない。


「それで、行くのはいいけどいつ行くんだよ。弥一」

「ん? やだなぁ。いつって、今からだよ?」

「はぁ!? 今から!?」


 驚きのあまり思わず、大きな声をあげる。


「うん。そうだよ? だって、今が一番タイムリーだし」


 そう言って、弥一はマリンステークの航路を端末に表示して見せてくる。


「都合のいいことに、今この船は、ちょうど旧日本栃木県の真上を通過中なんだよ。今なら、短時間でちょちょっと行って帰ってこれるし、このタイミングを逃す手は無いでしょ!」


 チラリと虹村さんの方に目を向ければ、あっちもこちらを向き、目が合った。


「ま、まぁ……私は一応、この後何も予定は無いので大丈夫ですけど……」


 虹村さんが良いというのに、俺が断る訳にもいかない。それに、面倒なことはさっさと済ませた方が良い。

 俺も渋々ながら了承し、俺と弥一、それと虹村さんはこのまま下校する足で海底探索へと赴くことにした。


 学校を後にした俺たちは、弥一に案内されるがまま船内の端にある港へと連れてこられた。

 マリンステークには海上の一番大きな港の他にも内部の一部階層や区画に小さな港があり、潜水艦があれば船の側面から外に出ることが出来る。そして、個人や中小のサルベージ業者のほとんどはこっちの港から海底に出ることが多い。

 逆に、上の大きな港が使われるのは交易船や漁船、よほど大手のサルベージ業者くらいのものだ。


「カイト、虹村さん。こっちこっち」


 弥一の先導で後をついていくと、一艇の潜水艦の前に着く。

 俺が「これ?」と聞くと、少し誇らしげに「そ!」と返してくる。

思えば、コイツの趣味は知っていたけど、実際にコイツの潜水艦を見たのは初めてだった。

以前にも何度か一緒に潜るか誘われたことはあった気がするが、思い返すと尽く断っていた。理由は勿論、別に海底に興味がない俺からすれば面倒だったからだ。

 ともあれ、三人で弥一の潜水艦に乗り込む。中は、見た目通り三人では少し手狭に感じる。


「あはは……三人だと流石にちょっと狭いね。ごめんね? 虹村さん」

「おい、俺は?」

「カイトはちょっとぐらい我慢してよ」


 そんなやり取りをしつつ、弥一の「それじゃあ、行くよ? どっかに掴まってて」の合図で、いざ水中へ。そして、一瞬船内が暗くなった。

 水中に入ると同時に潜水艦のライトが点灯し真っ暗な水中が照らされる。その光で薄っすらと船内も青白く照らされた。


「なぁ、なんで船の中に照明が無いわけ?」

「え? 別に要らないからかな。節約だよ節約」


 どうして変な所で貧乏性なんだ。まぁ、確かに真っ暗なわけじゃないから良いと言えば良いけど。


「地図だと、この辺りだったと思うけど……」


 そう言って弥一が周囲を照らす。

すると、一番早く声を上げたのは虹村さんだった。


「あれ、何ですか?」


 俺と弥一は彼女の指差した方向を、目を凝らしてみる。

 そこには、海底に半ば突き刺さったように一部が埋もれた四角い箱があった。


「なんだ……あれ」

「あー、あれは廃棄された区画だね。なるほど……」


 弥一は一人納得したように声を漏らす。


「弥一、どういうことだよ」


 勝手に自分の中だけで納得する弥一に、俺は説明を求める。


「虹村さん、ここ数年で引っ越ししたんじゃない?」

「え? は、はい……。確かに三年くらい前に引っ越ししましたけど……」

「じゃあ、あれがその頃に虹村さんが住んでた区画ってわけだね。三年前くらいだと、確かの二十三番区画がパージされた頃かな」


 弥一の言葉に、虹村さんも頷く。そして、そんなやり取りで俺にも状況が分かってきた。

 そもそも、マリンステークでは定期的に古い区画や漂流物で欠損した区画をパージして、新設の区画が整備される。そして、今目の前にあるこの巨大な箱が、まさにそのパージされた区画。もっと言えば、虹村さんが住んでいた区画というわけだ。

 という事はだ。おそらく、地図には何かしらの発信器やマーカーの信号を表示されていて、それは廃棄された居住区の中にある。ならこの地図は元々、海底に何かを隠したいわゆる『宝の地図』のような物とは程遠く、単に家の何かしらに付けられたマーカーを追っていただけだったという事だ。

 別に、珍しいことじゃない。船内では不慮の事故や災害が起きた時に、致命的な損害を受けた区画が急遽パージされることもある。そんな時に備えて、咄嗟に運び出せないモノや大切なものに後で追えるようにマーカーをつけておく人は少なくない。

 理由は簡単で、航路にマーカーの反応が近づいた時、サルベージを依頼する為だ。つまるところ、おそらく虹村さんの父親も今生きていればこのマーカーを基に、何かのサルベージを依頼するつもりだったんだろう。ただ、絶縁病のせいで亡くなり、その機会は訪れなかった。


 しばらく、海底に突き刺さった区画を見て、弥一は大きく息を吐いた。それを見て、虹村さんが恐る恐る弥一に声を掛ける。


「あ、あの……あの中に、入るんですか……?」

「ん? ん~ん。無理だね。こればっかりはお手上げだ」


 あんなにも宝探しに目を輝かせていた弥一が、思いのほかさらっと諦めていた。

 そんな弥一に驚いて、思わず俺も声を掛ける。


「何が無理なの?」

「えっと、区画のハッチなんてのはさ、そんじょそこらのセキュリティとはわけが違うんだよ。なにせ最高レベルのセキュリティだし」


 さらに、ガッカリしたように弥一は続ける。


「普通こういう場合は、一旦丸ごと引き上げて海上に出したから、その手の人達がゆっくり開けるもんだけど、勿論こんな小さな潜水艦じゃ、あんな巨大な区画丸ごとなんて引き上げられないし、まして天才ハッカーでもない僕らだけじゃロックを解除する事なんて出来るはずも無い。だから、残念だけどこればっかりは、諦めて帰るしかないね」


 そう言って、踵を返そうとする弥一。

 もしここで、何も言わずに黙っていれば、面倒ごとを早く切り上げられてそのまま素直に帰れるだろう。

 だけど……少しだけ気になる気持ちもある。別に、弥一みたいに地図の事が気になってるわけじゃない。

 そもそも基はと言えば、『略式化(キューバライズ)』がどのくらい役に立つのか、なんてことを試してみる為だけに受けた依頼。実際、今回の事で電子ロック錠なら、そう手間を掛けずに簡単に開けられることも分かったし、これで今後の仕事の幅も広げられそうだと分かっただけで十分な収穫ではある。

ただ、俺が気になるのは……この力が、どこまで通用するのか……。


「……もしかしたら、開けられるかもしれない」


俺の言葉に、弥一が振り向く。


「え? いやいや、流石に無理だよ」

「いいから。ハッチに近づけてくれ」


 仕方がないと吐き捨てながらも弥一は潜水艦をすいすいと潜らせ、区画の周囲を旋回しながら入り口を探すと、苔と泥に覆われた入り口のハッチを見つけて潜水艦を寄せる。


「一応、生きてはいるみたいだけど、ここからどうするの? ダイビング用の装備なんてないからね?」

「わかってる」


 弥一の言葉に返事をして、同時に頭の中でホタルに声を掛ける。


『ホタル、……届くか?』

『——問題ありません! 略式化(キューバライズ)、射程圏内です!』


 よし、心の中で小さくガッツポーズをする。

 鞄の中からコアキューブを取り出し、空いているもう片方の手をハッチに向ける。

 他人に見られていると発声コマンドが少々恥ずかしいが、背に腹は代えられない。今は羞恥心よりも好奇心の方が勝っていた。


「——略式化(キューバライズ)——!」


 発声と共に、手に持ったキューブが発光し、キューブが目の前に投影される。


「うわっ! なにこれ!?」


 弥一と虹村さんが驚いて、俺の方を見るが無理も無い。


「説明するのも面倒だし、それは後。ちょっとだけ時間が欲しい」


 俺がそう言うと、弥一は「それはまぁ良いけど」と了承し一緒に虹村さんも頷いた。

 キューブを見れば、規模は5×5×5のキューブ。確かに、虹村さんから預かった記憶媒体の時と比べるとサイズこそデカいが……正直、これは何というか……。拍子抜けというのが俺の感想だった。

 いや、今にして思えば、今までのキューブが異常だったのかもしれない。今まで俺が解かされてきたキューブはと言えば、数十秒から十秒足らずの間隔でスクランブルされる鬼畜な設定の上、規模も一辺が6列と、今目の前にあるキューブよりもデカい。おまけに、目の前のこいつはスクランブルの間隔を図れば、大体五分以上もあるように見える。

 要するに、パスコードの規模もハッキング対策の自動パス変更に関しても、地球の「最高レベルのセキュリティ」ですらこのレベルだとすれば、このコアキューブを作った宇宙人類の科学力とこの惑星のレベルとでは、大きく開きがあるという事だろう。とはいっても、その宇宙人類は既に滅びてしまったらしいけど。


 ともあれ、普段のキューブに比べればてんで話にならないほどに簡単で、解錠には十分とかからなかった。

 俺がキューブを揃えると、ゆっくりと鈍い音を立てながらハッチが開いていく。


「え……? 何なに!? どういうこと!? 本当に開けちゃったの!?」

「いいから。これで中に入れるだろ」


 興奮する弥一をなだめて、潜水艦をハッチの中へと進ませる。

 ハッチをくぐると、外側の隔壁が閉じ、一定の水量が抜かると、潜水艦の上半分が水上へと露出する。そしてそれから間もなくして内側の隔壁が開いた。


「カイト、虹村さん。準備はいい? さぁ、鬼が出るか蛇が出るか、行くよ?」


 水をかき分けるように潜水艦は前に進み、俺たちは廃棄された海中の都市へと足を踏み入れた。


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