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0-終 新たな人生

長そうですが、後2章で終わります。

 ヨシが全てを認めた後、金塊は回収された。

 取引は無事に終わり。フライ達は事なきを得た。

 全てを認めたヨシは、まるで人形の様に気力を失っていた。


 アイリーンは彼女の裏にあった、野心が恐ろしかった。

 優しく見える人物でも、裏では何を考えているか分からない。

 ――かつて学んだはずなのに……。


「アイリーン! 君のおかげで、私は無事だったようだ!」


 フライが笑顔を向けて、彼女に近づいた。

 

「やっぱり、危機感がなかったんですね?」

「そんなことはないぞ! 理解してなかっただけだ!」


 ――もうそれで良いよ……。

 アイリーンは呆れながら、溜息を吐いた。

 この人は呑気なものだ。他のみんなは、慌てていたというのに。


「感謝の気持ちは本当だ。ありがとう」

「ええ。じゃあ、素直にどういたしまして」


 人には表裏があり。自分には見えない側面がある。

 だから人を信じるのは難しい。

 アイリーンは今回の事件で、再び痛感した。


 それでも……。目の前の人物なら信頼できるかもしれない……。

 アイリーンは再び一歩踏み込むために。

 覚悟を決めていた。


「フライ様。奴隷を解放した後、心のケアをするとおっしゃられていましたね?」

「ああ。君達は奴隷としか生きられないと、刷り込まれている」


 アイリーンにもそれは、理解できていた。

 自分も少し前まで。再び奴隷の様に生きようとしていた。

 フライとの接触で、少しだけ自分を取り戻せた気がする。


「長い時間が必要だろう。それほど、思い込みとは恐ろしいものだ」


 自分は奴隷として生きていくしかない。

 だから解放されても再び奴隷の様になる。

 ただ解放するだけが救いではないと、フライは語っていた。


 解放された人達がきちんと、自立できるよう支援すること。 

 それが上級貴族たる、自分の役目だと。


「では奴隷の気持ちが分かる者が、必要ですよね?」


 アイリーンは彼の言葉を。優しさを信じた。

 自分に新しい道を示してくれたフライの信念を。


「心のケアとやら。私にも手伝わせてくれませんか?」

「ん? まあそうしてくれると、助かるが……」


 フライは頭を掻きながら、目を閉ざす。


「良いのか? そうなると、正式に君を雇う事になるが」

「自分で誘っておいて、何を言うんですか? 私は決めましたよ」

「そうか。じゃあ……」


 フライはアイリーンに手を差し伸べる。


「これからは、フライ様じゃなくて。所長で頼む」


 アイリーンは面食らった。彼は様付けが好きではないらしい。

 ――変わった人だ。

 アイリーンは少しだけ微笑みながら、手を握る。


「分かりました。所長」


 こうしてベート・ビンダード改め、アイリーンは。

 フライの探偵事務所で、第二の人生を送ることになった。

 

 だがこれは。次なる事件の始まりに過ぎない。

 貴族であるアイリーンが、何故奴隷として売られたのか?

 ヨシの一家は何故、没落してのか?


 金塊を奪う事に、何の意味があったのか?

 そしてフライが探偵を目指す理由は……。

 全ての答えは一つの真実へと収束する。


************************************


「も、申し訳ございません! まさかこんな事になるとは……」


 アイリーン達を奴隷にしていた主が。

 ある男に土下座していた。

 赤毛長髪の彼は、ステーキを嚙みながら報告を聞く。


「んで? なんで帰ってきたんだ?」

「は、はい?」

「分かんねえのかよ。雑魚が。もう用済みだから消えろって言っているの」


 フォークを手に持ち、主の甲に振り下ろす男性。

 主は悲鳴を上げながら、手の甲を動かそうとした。

 だがフォークが地面まで刺さり、自力で抜けない。


「荷物、売り飛ばしておけよ? お前、明日から監獄なんだから」

「そ、そんな……! 私が居なくなれば……」

「俺を支援したいなんて奴ら、いくらでもいるんだよ」


 男性はフォークから手を離し。主の蹴り飛ばした。

 冷たい眼差しで、吹き飛んだ彼を見つめる。


「ただ色々チクられたら面倒だ。いっそ声帯だけでも……」

「ひぃ! 夜逃げします! 辺境に避難します!」

「分かったら……。とっとと動けや! ゴミクズが!」


 ナイフを主の喉元に近づける男性。

 

「申し訳ございません! "アーティ"様!」


 震えながら立ち上がり。主は慌てて立ち去った。

 アーティと呼ばれる、赤毛の男性の傍に。

 一人の女性が近寄った。アーティは彼女の頬を、撫でる。


「あらら。お可哀そうに。流石、トカゲの尻尾ですわね」


 アーティに寄り添う女性は、アイリーンと似てい居た。

 

「何本にも枝分かれした尻尾だよ。ニーシャ。お前違うけど」

「あら? それは本当かしら?」


 アーティのひざ元に座りながら、ニーシャと呼ばれた女性が顔を近づける。


「婚約者を奴隷として裏切ったのは、どこの誰かしら?」

「婚約者は道具。お前は愛する妻だ。その違いだよ」

「クスクス。お姉さまも愚かですわね。本気で貴方が愛してくれると信じて」


 ニーシャ・ビンダード。ビンダード家の次女で。

 現在はアーティー・グリムトの妻である。


「へえ。お前に姉なんか居たんだ?」

「幼き日に婚約を交わした相手を、もうお忘れかしら?」

「俺は王になる男だぞ。ちっぽけな存在、直ぐ忘れる」


 ステーキを噛みちぎりながら、アーティはニヤリと笑った。


「まあ、王は王でも……。悪の帝王だけどね!」


 狂った様に笑いながら、アーティは背後の大金を見つめた。

 この時彼は、気づいていながら放置していた。

 自分達を破滅させる足音が、近づいている事を。


 アーティと言う人物は、ただの悪人ではない。 

 正真正銘。最悪の悪徳貴族だった。

~次回予告~


士官学校で殺人事件が発生。捜査が行き詰った騎士達は、"アジル"の力を借りるため。

フライの探偵事務所に訪れた。だがアジルは現在不在。

アイリーンとフライが代理として、事件解決に挑む。


容疑者は癖の強い、士官学校の教員達。

彼らはそれぞれの専門知識を持っていた。

犯人は誰なのか? どんなトリックが使われたのか?


徐々に明かされる士官学校の闇。過去との対峙。

断罪者による裁き。全ての闇に光が差し込む時。

アイリーンは自らの過去と決別する。


次回。士官学校殺人事件


復讐が交差する時、そいつは破滅へと向かう。

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