出発
夜明けと共にベッドから出た。
早すぎると思っていたが、外の空き地にはもうディンとチャムチャムが待っていた。
「靴を設えました。お試し下さい」
チャムチャムが革で編んだらしい靴を差し出してきた。履いてみると、見栄えは悪いが確かに歩きやすかった。
「これ、リュアさんの服。乾いたからお返しするようにって」
背中にしょった大きな籠の中に、リュアの服が入っていた。洗って乾かしてはあるが、糸が無いから裂けた生地はそのままにされている。
「いらないわ。あなたに上げる」
籠から取り出し、チャムチャムに差し出した。城に戻ればいくらでも替えはある。
「お気持ちはうれしいのですが、ここでは着る機会がございません」
頭を下げながらチャムチャムが固辞する。その態度が妙に気に喰わなかった。
「そう。なら仕方ないわね。ディン、これ捨てておいて」
「ええ、もったいないよ。婆ちゃんに預けて、雑巾にしちゃっていいかな?」
ディンやチャムチャムの生活なら一月の食事分を上回るほどの値段で取引される生地だったが、リュアには興味が無かった。
「好きにしなさい。じゃあ、そろそろ出発しましょう」
どこに続くかわからない道をリュアは歩き始めた。振り返る必要はない。もう二度とこんな場所には来ないだろうし、笑い話として宮廷で話して聞かせる以外の想い出などひとつもない場所だった。