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覚醒勇者のクロニコル  作者: 氷川 泪
エピローグ
31/102

戦輪

「ディン、行くわよ」


 高らかに宣言し、リュアはゼニアに向けて草地を走った。

 ゼニアの武器は投擲(とうてき)を主とする円形の刀だ。接近してしまえば威力は半減するはずだ。


 リュアの脇を、ディンが風のように走り抜けていく。リュアの前に立ち、リュアを守る気なのだろう。


「戦闘ってのはね、勇ましいだけじゃ勝てないんだよ」


 ゼニアが右手の環刀(かんとう)を投げつける。チャムチャムが戦輪(チャクラム)と呼んでいた円形の刀だ。

 戦輪は 一直線にリュアの首目掛けて飛んでくる。高速で回転する刃が月光を反射して不気味に輝いて見える。


 リュアは足を止め、サーベルを構えた。戦輪を打ち落とせれば、ディンがゼニアの懐に入れる。

 

 戦輪の動きが不意に変化した。大きく右に曲がった戦輪は、前を走るディンの胴体を横薙(よこな)ぎするように軌道を変えていた。


「うわっ、あぶね」


 ディンの体が沈み、草の上に滑り込んでいく。戦輪はディンの鼻先を掠め、投げたゼニアの下へ戻っていった。


 雑草を薙ぎ払いながら、もう一体の戦輪がリュアの(すね)目掛けて飛んできた。跳躍して避けたがバランスを崩して草の上に倒れこんだ。

 

「ぼやっとしてると危ないよ、お姫様」


 倒れ込んだリュアの頬を(かす)め、戦輪がディンに向かって飛んでいく。空中で自在に変化し、狙った相手を追尾する円形の剣。存在するはずのない剣を、リュアは今()の当たりにしている。


「ディン、危ない」

 

 立ち上がりかけたディンが再び地に()せた。その上を戦輪が駆け抜けていく。


「最初の勢いはどうしちゃったのさ。どんどん行くよ」


 嬌声(きょうせい)を上げながらゼニアが戦輪をキャッチする。どこに投げても、戦輪は間違いなくゼニアの手元に戻ってくる。


 ゼニアが左右それぞれの手に持った戦輪を放った。不気味な風切音だけを残して、二体の戦輪は闇の中に姿を消した。


 リュアとディンは凍りついたようにその場に立ち尽くしていた。戦輪が巻き起こす風の(うな)りに耳を澄ませ、動きを感知してからでないと不用意には動けない。


「どっちを狙ったと思う?教えてあげない。ほうら、もうじきあんた達どちらかの腕が落ちるよ」


 二人を嘲笑(あざわら)いながら、ゼニアがゆっくりと草地を移動する。


「ディン、動くわよ」


 草地の中央に立つディンに向かって声を掛けた。危険ではあるが、このままここに立ち尽くしていても(らち)が明かない。動かなければ、遅かれ早かれ二人ともゼニアにやられる。


「でも、どっちに行けばいいの?」


 周囲に目を配りながらディンが(ささや)き声を上げる。


「森よ。木々が密集している森の中なら、あいつの攻撃も防ぎやすいでしょ」


 障害物の多い森の中に逃げ込めば、戦輪の威力は半減するはずだ。草地から森の中まで歩幅にして50歩ほど、駆け抜ければ数秒で到達する。

 ディンに向かって(うなず)くと、リュアは森の中に向けて全速力で駆け出した。戦輪はまだ襲ってこない。投擲された剣はどちらもディンを狙っているのかもしれない。

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