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覚醒勇者のクロニコル  作者: 氷川 泪
エピローグ
18/102

追撃

「追ってくるぞ」


 馬車に並走(へいそう)しているフォボスの手の者がゲバイに告げてきた。フォボスは公国側の密輸組織のボスで、ゲバイの父に密造酒の製造方法と密輸入の方法を(さず)けた男だ。

 公国の闇組織最大のボスで、王国内での勢力拡大を目論(もくろ)んでいる。ゲバイからすれば、王国騎士団や山賊よりも恐ろしい相手だ。


「王国騎士団か?」


 連絡用の鳩は全て始末するよう副村長に指示している。仮に副村長が裏切ったとしても、騎士団が到着するにしては早すぎる。


「いや、馬が一騎だけだ。乗ってるのは女だ。まだ若い」


 フォボスの手の者は10騎、いずれも黒いコートを羽織(はお)り、つばの広い帽子を(かぶ)っている。勇猛で知られる公国軽騎兵隊出身者が多いと聞いていた。


「ただの旅人じゃないのか?」


「頭の弱い奴だなゲバイ。この道を恐れもせず馬を駆けさせてくる。只者じゃない」


「見当もつかないな。何者だろう」


 首を後方に向けた途端、馬車の隣を凄まじい速度で馬が駆け抜けていった。驚くほどでかく、驚くほど速い馬だ。


「あれは、ハーキュリー」


 走り去っていく馬の尾を見つめながらゲバイは(つぶや)いた。


「知ってるのか?」


 フォボスの男が気色(きしょく)ばんだ。一方的に抜き去られたことに腹が立ったのかもしれない。


「乗ってるのは、多分ガキだ。村の果てに住んでる、ガフテンのとこの孫娘に違いない」


 頭が混乱していた。ガフテンの孫娘とパチェットの孫は、金貨を奪ったあと始末するよう指示を出している。生きているはずはない。


「それに、あの馬は・・・・・」


 ハーキュリーだ。高い金を払って手に入れた悍馬だが、なぜガフテンの孫娘を乗せてこんな場所を走っているのか皆目(かいもく)見当がつかない。


「化物みたいな馬だな。それにあの小娘、馬の扱いに慣れている」


 フォボスの男が目をくれると、後方にいた3騎が馬脚を速めて前に出た。


「捕らえろ。女は殺してもいいが、あの馬は殺すな」


 フォボスの男が命じると、馬に(むち)をくれ3騎が疾駆に入った。通りすぎていった小娘と巨漢馬の姿は見る間に遠のいていく。


「あいつだけか?他にいないか?」


 後方に目を向けたが、荷台の幌が邪魔で確認できなかった。ガキだけならいいが、王国騎士団の追撃を受けたら、ここではひとたまりもない。


「心配するな。たとえ王国騎士団であろうと、砦までなら逃げ切れる」


 小馬鹿にしたような声でフォボスの男が笑う。元公国軽騎兵のプライドなのだろうが、フォボスの者は王国騎士団の名を聞くと敵愾心(てきがいしん)()きだしにする。


「ガキを捕えたら、おれに渡してくれないか?(いく)つか訊きだしたいことがある」


「わかったよゲバイ。お前の女好きは病気だな」


 嘲笑(ちょうしょう)を残してフォボスの男はゲバイから離れていった。腹が立つが仕方がない。フォボスの手下どもはどいつもこいつも一流の殺し屋だ。下手に恨みでも買ったら後々面倒なことになる。


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