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覚醒勇者のクロニコル  作者: 氷川 泪
エピローグ
17/102

風になる

 北へ続く街道は、岩場の多い(けわ)しい道だ。坂が多いうえに、すぐ隣は切り立った(がけ)だ。


 ディンとチャムチャムを乗せたハーキュリーは、風のように街道を突き進む。凄まじく速いが、ディンが想像したよりずっと揺れは少ない。


「うわはっ、すっごい。空を飛んでるみたいだ」


 崖の遥か下方に、ディンとチャムチャムが暮らすパイポの大森林が見えた。いつの間にか吐く息が白くなり、街道の所々に雪が見え始める。


 馬車に追いついたら、リュアを取り戻す為に大人たちと闘わなければならない。チャムチャムは大丈夫だというけれど、それでもディンは大人たちが怖かった。


「あれよ。見えてきた」


 チャムチャムが指差す方向に、米粒ほどの影が見えた。つづら折りする岩の道を、影はゆっくりと移動している。

 

 近づくにつれ、米粒程に見えた影が馬車の形を取り出した。六頭立ての馬車は幌付きの大きな荷台を引き、かなりの速度で移動していた。それでも動きが遅く感じたのは、馬車の倍近い速度でハーキュリーが()けているせいだ。


「どうすればいいの?」


 手綱を操るチャムチャムの耳元で大声を上げて(たず)ねた。風を切る音が強くて、普通に声を上げても届かない。


「わたしが注意を引きつけるから、ディンはリュア王女を助け出して森へ逃げなさい」


 眼下に広がるパイポの大森林なら、子供の頃から慣れ親しんでいる。確かに、森に逃げ込めば、そうそう簡単に見つけられることはない。


「わかった。どこか落ち合う場所を決めておく?」


「その必要はありません。早ければ一日、遅くとも二日後には王国騎士団が村にやってきます。そこで合流しましょう」


 副村長が鳩を飛ばしていなかったらという言葉をディンは()み込んだ。チャムチャムがそう言うのだから、ディンはただそれを信じる。


 急峻(きゅうしゅん)な坂道に入ると、ハーキュリーは速度を落とすどころか、さらに加速しだした。

 馬車との距離は見る間に(せば)まり、幌を被った荷車の後部が見えてきた。


「じゃあ、おれここで降りるね。チャムチャム、気をつけて」


 手綱を握り前を注視するチャムチャムの口元が(やわ)らいだ。


「ディンもね。これが終わったら、二人で小屋に帰りましょう。ご馳走をたくさん作ってあげる」


「やった。おれ、やっぱチャムチャムのご飯が一番好きだ。婆ちゃんには内緒だけどね」


「ありがとう。じゃあ行きなさいディン。くれぐれも気をつけて」


 チャムチャムが手綱を引くと、ハーキュリーの馬脚(ばきゃく)(ゆる)やかになり馬速が落ちた。


「行ってくる」


 チャムチャムの腰に回した腕を外し、ディンはハーキュリーの背から飛び降りた。雪の残る街道は、表面こそぬかるでいたが、底には硬い岩盤があって走るのに苦労はなかった。


「はっ!」


 チャムチャムが腹を蹴ると、並走していたハーキュリーはディンを置き去りにして疾駆(しっく)に入った。


「リュア、待ってて」


 大きく息を吸い込むと、ディンは全速力で走り出した。


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