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覚醒勇者のクロニコル  作者: 氷川 泪
エピローグ
13/102

ドメイの翡翠

「ゲバイ殿、これはなんでしょう?」


 ドメイの翡翠(ひすい)を見るリュアの顔つきが険しくなった。

 

 館からメイドと髪結いを呼び寄せ、バスタブと鏡台を用意した。リュアに似合いそうなドレスも十数着持ち込んだ。


 そこからが長かった。バスタブに()かり髪を結うだけで2時間もかかったうえに、持ち込んだドレスは全てダメ出しされ、男女関係なくゲバイが所有している服を全て見せろと命令された。ようやくドレスが決まった頃には日が傾きかけていた。


「当家に代々伝わる幸運のペンダントです。今日リュア様にお目通(めどう)りが(かな)いましたのも、このペンダントの導きではないかと思い、ぜひ一度身に着けていただきたく」


「幸運のペンダント?確かにゲバイ殿からすれば幸運でしょうが、今のこの状況は、わたしにとっては不幸の(きわ)み。身に着けて良いことが起こるとは思えません。それにドレスが決まってから身に着けろと言われても、ガーネットのドレスと翡翠の碧では色合いがよくありません」


 そんなこと知るかと言いたくなるのを必死で抑えた。

 身支度を整え、化粧を施したリュアの姿は女神と見紛(みまご)うばかりに美しかったが、それにも増して尊大な態度が鼻についた。

 

 例えコンフォードの名を持ち出したところで、王家であるデュクス家からすれば末端の一貴族にしか過ぎない。リュアの中ではゲバイの立ち位置は平民と差して変わらないようだ。


「そうおっしゃらず、その翡翠を身に着けていらっしゃるところを村の者どもが見れば、生涯の眼福(がんぷく)となるに違いありません。せめて村から出るまでで構いませぬから、御身の胸元を飾らせてはいただけないでしょうか?」


「こんな物で民は喜ぶのですか?理解できません」


 小ばかにしたようにせせら笑うその顔すら美しいのだから質が悪い。だがもう少しだ。ドメイの翡翠を身に着けさせることができたなら、この高慢な王女を自由にできる。


「わかりました。出立の際には、これを身に着けて出ましょう」


「ありがたき幸せ。村の者たちも喜ぶことでしょう」


「仕方ありません。民あっての王族です。それくらいのことはいたしましょう」


 たかだかネックレスひとつ身に着けるだけでこの態度だ。金と権力さえあれば、人はここまで尊大になれる。


「で、キリクはいつ頃到着しますか?」


「ここにはおいでになりません。この村の先にございます町で、騎士団の皆様と合流する手はずになっております」


「ここに来ない?なぜ?」


「この村が賊に襲われることを考慮され、村に留まるのは危険だと判断されたようです」


「そうですか。では用意が整うまでわたしは休むことにします。わたしが声を掛けるまで、何人たりともこの部屋に近づけないで下さい」


 胸を撫でおろした。リュアに話したことは全て嘘だ。キリク・ゾーイなど現れる予定はないし、向かうのは街ではなく、密造酒を保管する砦だ。


「それでは用意出来次第ご連絡させていただきます。翡翠のネックレスの件、何卒(なにとぞ)お願い申し上げます」


 もう下がれと言わんばかりに、リュアが掌を振った。明日の今頃には、あの美しい指のひとつに、婚姻の証の指輪が光っているはずだと思えば、腹も立たない。


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