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覚醒勇者のクロニコル  作者: 氷川 泪
エピローグ
11/102

歓喜の舞

「へっ?」


 男の眼はチャムチャムを追いきれず、あらぬ方向を見て彷徨(さまよ)っていた。男からすれば、チャムチャムの姿がいきなり視界から消えたように思えただろう。


「このボロカスが。わたしにエロい目ぇ向けやがって」


 チャムチャムの右拳が男のみぞおちに吸い込まれていった。


「うげっ!」


 小さなチャムチャムの拳が、手首まで赤毛男の腹に潜り込んでいる。男は前のめりに体を折り、大口を開け舌を突き出し悶絶(もんぜつ)した。


「このバカチン。腐って死ねクズ」


 腹を抑えてのたうち回る赤毛の頭を蹴り飛ばすと、赤毛はピクリとも動かなくなった。

 

 それまで余裕を見せていた他の男たちの様相が変わった。それぞれが武器を構え、チャムチャムを囲む。


「大の男が寄ってたかって武器構えて、いたいけな女の子になにしやがんだ」


 チャムチャムの体が動き、直近にいた男に襲い掛かった。釘を刺したこん棒を構えた大男だったが、棒を振り落とす前にチャムチャムが男の足元に到達した。


「でっけぇ図体してとれぇんだよ薄らバカ」


 チャムチャムは髪からかんざしを引き抜くと、その先端を大男の足の甲に突き刺した。大男が絶叫を上げ跪くと、チャムチャムはそいつの頭髪を掴んで地面に叩きつけた。


 顔面から地面に叩きつけられた大男の背中を伝ってチャムチャムは跳躍(ちょうやく)した。かんざしを取ったせいでチャムチャムの黒髪が風に広がり、黒い大蛇のようにうねっていた。


「ヒャッハー!いいネお前ら、最高だねぇ」


 歓喜(かんき)に満ち溢れた叫びを上げ、チャムチャムが剣を構えた男に襲い掛かった。今までの男とは違って、剣を持った男は冷静だった。走り寄るチャムチャムの胴体目掛けて剣を一閃(いっせん)した。


「チャムチャム!」


 思わずディンは叫んでいた。男の剣はチャムチャムの胴体を正面から斬りつけ、そのままチャムチャムの体をすり抜けていった。


「残像だ、アホウ。勝ったと思ったか」


 剣の男の右腕と襟を掴むと、チャムチャムは男の体を腰で担ぎ、そのまま全身を(ひね)った。凄まじい速度で男の体が回転し、そのまま体ごと地面に激突した。


「秘儀、クズ殺しトルネード」


 あの技ならディンは以前喰らったことがある。超高速で繰り出されるソデツリコミゴシという名の投げ技なのだが、チャムチャムは勝手に「クズ殺しトルネード」と名付けて使っていた。


 剣の男は全身を大地に叩きつけられ、口から血を吹いて昏倒(こんとう)した。以前訓練でディンを投げた時と違い、完全に受け身を取れなくしてから投げていた。死なずに済んだのならラッキーだ。


「うひょ~、乗ってきたぜ!」


 歓声を上げながらチャムチャムが別の男二人に襲い掛かった。ひとりは蹴りで、もう一人はエルボーで瞬時に打ち倒す。


 武器を持ち、身体も大きく数でも勝っている男たちに動揺が走る。無理もないことだ。さして子供と変わらない容姿をした少女が、あっという間に五人の仲間を再起不能にまで追い込んだのだ。


「ディン、そっちの三人はお前の獲物だ。さっさとやっちまいな」


 チャムチャムがディンの背後を指差して叫んだ。振り返ってみると、三人の男が呆然と立ち尽くしていた。

 チャムチャムの指示で動き始めたのはディンではなく男たちの方だった。一人がディンを背後から羽交(はが)()めにし、もう一人がディンの首筋にナイフを突きつける。


「ガキを捕まえた。大人しくしろ!」


 ディンの隣にいる年配の男がチャムチャムに向かって声を上げた。ディンも知っている、村の副村長だった。



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