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「どうしたのよ?何で急に帰ったりしたの?」
帰ってきた姉に部屋に呼ばれて言われたので、私は、
「もうファン辞めた」
と言った。
「はあ?」
「今日はごめん。もういいよ。ファン辞めたから」
「いやいや、ちょっと!!」
自分の部屋へ行こうとした私を引き止め、
「それじゃ分かんないでしょ!あんた最近変だよ?何があったの?」
と言われたので、泣きそうになりながら、話した。
「うーん、分かった」
と姉は言った。
「また何かあれば言いな。いつでも聞くから」
「うん」
私は、言いながら頷いて、自分の部屋に行った。
それから、○○の曲を聞かなくなり、音楽番組も見なくなった。
その後は、学校へ行き、クラスの子と話し、御飯を食べて、勉強して、お風呂入って、音楽以外のTVを見たり、面白そうな動画を見たり して日々を過ごした。
平凡で、良く言えば平和だったが、別の言い方をすれば精彩に欠けていた。
ある日学校から帰ると、
「恵、ちょうど良かった。牛乳買って来て」
と母に言われて、自転車で近くのスーパーまで行った。
夕方近くだったので、商品に値引きシールが貼られていた。
主婦達で混雑していた売り場から、値引き商品を見事に勝ち取り、お釣りでアイスでも買おうと思い、売り場へ向かうおうとすると、突然、周りの景色が鮮やかに彩られた。
私は、有線から流れてきた音楽に立ち止まらされたのだ。
温かくて柔らかなんだけど、どこか力強くて熱い・・・○○の歌声だった。
メロディーも歌詞も聞いた事が無くて初めてだったけど、それでも、何だか自分に寄り添ってくれてる感じがして、とても温かい気持ちになった。
初めてTVで見た時も、それまでただただボーッと見ていただけなのに、
○○が歌った瞬間に引き込まれ、気がついたら心が温かくなっていた。
私は、買い物カゴに牛乳を入れたまま、その曲が終わるまで、じっと聞き入り、曲が終わ ると、急いでレジに並び、アイスも買わずに家まで猛ダッシュした。
「おねーちゃーん!!!」
家に帰って、台所に牛乳をボンッ!と置き、急いで姉の部屋に行くなり叫んだ。
「多分、このアルバムに入ってるやつだよ」
笑顔で姉が、サイン入りの新品のCDを出してきた。
「これ?」
「あげる」
「え?」
と言うと、娘はもう一枚同じCDを出してきて。
「いつも聞く用と、保存用に二枚買っといたの」
「お姉ちゃん」
と泣きそうになった。
「ついでにシリアルで、ライブの抽選も二枚申し込んどいたから」
「ありがとう!!お姉ちゃん!!」
「今度御飯おごってね」
「うんうん!何でも奢る!!!」
と姉にハグした。