2
○○○○年当時、私はまた高校2年生だった。 現在は50代なので、もう30年以上前にもなる。
「昨日、△△のライブのチケット初めて当たったんだ!!」
教室でクラスの女の子が話していた。
「へぇーすごいね!」
「いやもう全然当たらないから、CD10枚買ってシリアルで応募したの」
「そうなんだ?だからバイト増やしてたんだね」
「そうそう頑張ったわー」
私はクラスメイトの会話に聞き耳を立てていたら、少し胸が痛くなった。
ライブのチケットというのは、本当に抽選だし運が強くないと当たらないから、 当たる事自体はとても嬉しいけど、手元に残ったCDはどうなるんだろう。
1枚は自分で取っておくとしても、残り9枚は、取っておくのか、売るのか、誰かにあげるか、それとも捨てるか・・・。
家に帰ると姉が、イヤホンを耳にあて携帯で音楽を聴いていた。
「ただいま」
二階の自分の部屋へ行こうとした、私に娘が気づき、
「あ、恵」
「何?お姉ちゃん」
「来月、サイン会やるみたいだよ」
「え!?うそ!!!」
「ほら」
私は食い入る様に携帯を見た。
近くのショッピングモールのレコード店のイベントで、 新曲の発売イベントらしい。
「絶対行く!!!」
満面の笑顔で大声で叫んだ。
「次のCDにシリアルが付いてるってさ」
「やったぁー!!!!!」
とバンザイした。
このアーティスト○○を好きになったのは、中学の時だった。
中学に上がってすぐの夏休み明けに、仲の良かった友達が転校してしまって、 凄く落ち込んでた時、○○がTVで歌っていて、 凄く励まされて以来、ずっとファンを続けている。
ただとても人気なので、ライブも中々チケットが取れず、まだ一度しか行けた事がないが、 とても素晴らしくて、生まれて初めてライブに行ったせいでもあるが、 こんなお祭りみたいな、キラキラした美しくて楽しい世界があるのか!? とカルチャーショックを受けたのを、今でも鮮明に覚えている。
クラスでも人気で、皆CDを何枚も買い、シリアルを手に入れ応募している。 私はバイトもしていなかったので、お小違いを貯めてアルバム一枚習い、
シリアルで応募している。
何枚も買って当てているクラスの子達を見て、羨ましくないといえば嘘になる。 前回は、1シリアルで1公演応募だったから、今回も多分そうだろう。
人生全部の運を使い果たしても良いから、当たって欲しいと願う。
でも自分の好きなアーティストのCDを、使い捨てみたいに扱われるのは、
どうしても我慢出来なかった。
よく歌でも小説でも絵でも漫画でも、「作品は自分の子供みたいなものだ」と言う話を聞くが、 その子供達が、大量に作られ、多くの人の目に止まり、そして大量に消費されて、 飽きたら捨てられて行く姿を、私はとても悲しく思う。
でも自分も、小さい頃に読んでた漫画や、おもちゃや、ぬいぐるみなんかも、その時は好きで遊んでたけど、飽きて興味が無くなれば、平気で押入れに入れたし、殆ど思い出す事も無く時が過ぎ、
「もうこれいらないでしょ」とお母さんに言われて、迷いもなく捨てていた。
作る側も商売だし、生活しなきゃいけないからっていう事は分かる。
なので上手く言えないけど・・・複雑だった。