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夢の国紀行  作者: 石木 喬
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 一枚の写真がある。

 どこまでも続く大草原と青い空。

 気ままに草を食む羊の群れ。

 夜には満天を震わせる星たち。

 旅行好きで学生時代から紀行文を書き続けていた里美が旅行会社の勤務を経てライターとして何とか食べていけるようになったころ、ふとした折に眼にしたのが旅行写真家の写したその国の写真だった。その写真は一目見ただけでぐいぐい里美の心を惹きつけていった。それは単に行ってみたいというよりは、郷愁のような不思議な気持ちにさせた。

 里美は、学生時代から多くの国や地域を旅行していたが、さすがに辺境といわれる土地をひとりで旅行したことはなかった。興味を持ち始めてから資料を集めて検討すればするほど現地の交通事情や宿泊施設の条件など実際に旅することの困難さは明らかになった。しかし、それ以上に里美を惹きつける魅力がその国にはあった。

 里美ははるか遠くにあるその国に思いを馳せながら、仕事の合い間合い間に十分な月日をそれにあてて周到な準備を重ね、時が満ちるのを待ち続けた。

 馴染みの旅行会社などに企画を持ち込んでも、なかなか協力を得られなかったが、その頃ブームになりはじめていた極地ツアーなどが里美の企画を後押しすることになった。ありきたりの旅行先では満足できなくなった人たちが極地や辺境の地に興味を持つようになり、辺境を専門に扱う旅行会社も増えてきていたのだった。

 里美は旅行社の依頼を受けて紀行文執筆のためにアジア大陸の高原地帯にあるその国を訪れることになった。

 現地サポートなどの手配が済んで、日本人がほとんど訪れたことのないその国への一人旅が実際に可能となったとき、里美はようやく写真の光景に会うことができるのだと期待に胸が膨らんだ。

 長い間温めていた計画がようやく念願かなってのこのたびの旅行であった。

 旅行会社が日本語の堪能な現地ガイドを紹介してくれ、調査に同行してもらえることになっていたので、初めのころに抱いた不安は完全に払しょくするとまではいかないまでも、遥かに小さなものになっていた。旅行会社は現地の観光協会や同業者などとも連絡を取ってくれ、支援の約束を取り付けてくれていた。


 深夜便の飛行機の中で、窓に頭をもたせかけて窓の外を見ると、月明りに照らされたさまざまな形の雲が浮かび上がってきた。その光景にぼんやりとした視線を漂わせながら、里美は数日前までの自分を振り返っていた。

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