闘技場
「おりゃぁぁぁあっ!」
金髪男の気合いが入った叫び声がする度に、金髪を囲む他の修道士達が手に持っていた木の板やら石の板が砕かれて割れる。
上半身だけ裸になったカルロは白い歯を見せて満面の笑みを浮かべている。
「脳筋っていうのは、あーゆーの言うんだよねぇ。」
カルロが盛り上がったご自慢の筋肉を修道士達に見せびらかす姿を見た山崎がボヤく。
「勘違いモンクだから仕方ないよ。」
山崎の後ろから、棒読みで答える明も冷ややかな視線をカルロに送る。
全身の霊力を筋肉や拳、足に集中させる事で人知を超えた力を発揮する技がある。
それを発動する条件はモンクだろうが陰陽師だろうが同じではずあるだが、デモンストレーション中のカルロからは何の霊力も感じない。
「極普通で平凡な一般人でもあそこまで鍛えればモンクとしてはいい方だな。」
ひ弱そうでヒョロヒョロの悠一ですらカルロが見せびらかす筋肉には呆れてる。
明姫の提案で脳筋のカルロとは肉体言語で語り合う事が決まった。
地下都市には古い闘技場が有り、普段はカルロ達の騎士団が訓練所として使ってるらしい。
「こんな闘技場とかあるんだ。」
闘技場の客席から全体を見渡す明…。
「こんな小汚い地下都市とは違って、古都の地下都市には運動不足防止の為の最新のジムと道場がちゃんと取り揃えてあるぞ。」
明の隣に座る業平が古都の方が凄い自慢をしてフンと鼻息を荒くする。
「それで、誰があの脳筋の相手をするの?」
明の後ろに立つ明菜が問う。
「そりゃ、この中で一番弱い人でしょ。」
明菜の問いに山崎が答える。
あくまでもカルロは霊力を持たない一般人…。
加減を間違えれば大惨事になる。
「この中で一番弱いのは…。」
明姫の言葉でこの場に居る全員の視線が業平へと向かう。
「俺…、ですか?」
業平の戸惑いに一番高齢者である明姫が
「私が行ってもよろしいのですよ。」
と嫌味を言う。
「いえ、俺が行きます。」
実力的に言えば業平が一番弱い訳じゃない。
ただ、霊力の加減が難しいから業平が一番適任だと判断されただけた。
高齢の明姫だと100%が霊力頼りとなり、カルロの生命の保証が出来ない。
この中で一番身体能力の高い業平なら、ほとんど霊力に頼らずともカルロと渡り合える。
そういう意味で業平が選ばれた。
「業平、そろそろ眠いから早く終わらせてね。」
まだ時差ボケが続いてる。
欠伸をしながら明が言う。
「はいはい、姫様の為にも早く終わらせますよ。」
スーツ姿の業平が上着を脱いで明に渡し、ワイシャツの袖を肘まで捲る。
闘技場に降り立つ業平を対戦相手と認識したカルロがニヤリと笑う。
「その無駄に綺麗な顔を傷付けたくないなら、今のうちに逃げ出した方がいいぞ。」
カルロが業平を挑発する。
「面倒な御託はいいから…、それに、うちの姫様のおやすみ時間が近いから早く来いよ。」
業平はカルロにかかって来いと手の甲を向けてからクイクイと手の平を曲げて挑発を返す。
「吠え面をかかせてやるっ!」
カルロが唾を飛ばす勢いで叫ぶ。
脳筋は実に単純だと思い明が再び欠伸をする。
頭に血が上り全ての動きが単調で直線的になるカルロの攻撃など一生をかけても業平には当たらない。
頭から業平に向かって勢いよく突進したカルロに誰も同情はしない。
一瞬で決着がつく。
カルロの突進を正面から受ける業平がカルロの鼻に目掛けて拳を叩き込んでいた。
「お見事なカウンター…。」
パチパチと山崎が手を叩く。
カルロの高い鼻がぐしゃりと潰れ、ご自慢の白い歯は何本かが飛び散っていた。
完全に白目を剥いたカルロを見下ろす業平が
「じゃ、帰るか?」
と明に向かって手を差し伸べる。
「明の番…、なかなかやるわね。」
明菜がそう呟くと明姫がドヤ顔をし悠一が
「あのくらいパパだって出来るもん。」
といじけ出す。
「はいは~い、不器用な古澤さんがやったら死人が出るから帰ろうねー。」
悠一をよくわかってる山崎が悠一を回れ右させる。
「明?」
業平が客席に向かって声を掛ける。
座っていた明の上半身がぐらりと横へ倒れるから、慌てる悠一と明菜が明を抱えて支える。
「明っ!」
業平も焦って客席に戻れば明菜がシーッと人差し指を唇に当てる。
「やっと帰れると思ったら、気が抜けたのよ。」
明菜がふふと笑った。
母親と父親の腕の中で、年相応の表情を浮かべる明はすやすやと気持ち良さげに眠っていた。




