メディチ
「明!無事だったか?」
業平が明に駆け寄って来る。
教会の地下で明達が案内された場所は会議室のような部屋だった。
古びた長い机を挟み、明姫が3人の上級司祭と向き合っている。
「これでお孫さんの無事は確認が出来たはずだ。確認が出来次第、そちらの情報を公開する約束だ。」
司祭の1人が上から目線で物申す。
「その約束は反故よ。」
明菜が司祭に向かって口を挟む。
「この場では君に発言権はない。」
「あるわ。そちらの約束は娘の安全、なのに修道士カルロは娘に危険な接触を計ったわ。」
カルロとはあの金髪…。
明菜の言葉は予想外だったらしい。
司祭が次の言葉を考える前に遅れて来た山崎達も会議室に到着する。
「この兄ちゃん…、どうすればいい?」
山崎が手に握るロープを引くとロープに両手首を縛られたまま繋がれた金髪が部屋の真ん中へと突き出される。
「道士カルロッ!」
立場が悪くなった司祭達が騒ぎ出す。
「約束なんか関係ない。これ以上、この俺を侮辱するつもりならメディチは教会から手を引く。」
カルロが威勢よく喚き散らす。
司祭達が更に狼狽える。
「ねぇ、業平…、なんで修道士であるメディチがあんなに偉そうなの?」
声をひそめて隣の業平に聞いてみる。
業平は親指と人差し指で円を作りながら
「わかりやすく言うなら…、金。元々、メディチは教会のトップである教皇も排出してる名門であると同時に教会の大口スポンサーでもある。」
と答える。
本家筋は途絶えたが分家筋であっても教会にはまだまだ発言力がある。
「まずはその修道士を解放するわ。」
争いをしに来た訳じゃないと明姫が言う。
山崎から解放された修道士カルロが何故か上座に座り腕と足を組んで偉そうに発言する。
「そもそも神の子は教会のものだ。従って教会へ返して貰う。それに関する契約書も存在する。」
新を引渡すという契約書がある以上、この場では教会が正義だとカルロが主張する。
「貴方が言う神の子って誰の事?それは神が創りたもうた地上居る全ての人々の事を言ってるの?」
明菜が教会の教えを用いてカルロを馬鹿にする。
地上の人々は等しく神の子であるという教会の理念に従えば、誰彼でも構わずに人攫いが出来ると開き直った発言だと明菜がカルロの馬鹿っぷりを暴露して批難している。
「我々が言う神の子とは、そちらの国に居た天地を分かつ力を持った子の事だ。」
カルロが机を叩いて抗議する。
「天地を分かつ?そんな危険な子は我が国には居ないわ。居たとすれば…、それは悪魔か悪魔の申し子よ。神は神でしかないのが世の理だと何度も説明をしたはずよ。」
明菜も引き下がる気はないらしい。
「双方引きなさい。司祭長…、少数精鋭の陰陽師は貴方々のように根比べをしてる暇が無いのよ。」
明姫が嫌味を交えて明菜とカルロの諍いを止める。
根比べ…。
たかが教皇を決めるだけで数日、数週間も部屋に篭もり話し合いが続くコンクラーベに対する嫌味。
今は時間の方が惜しいと明姫の言葉に対し司祭長と呼ばれた男が
「我々の焦りも理解して下さい。」
と懇願する。
「教会は悪魔を利用しなければならないほど困窮してるのかしら?」
「今期の干ばつ…、既に水の奪い合いが始まってる事はご存知のはず…。このままではエネルギーの時の二の舞になるのです。」
石油枯渇で起きた戦争…。
世界大戦へと発展する前に新たなエネルギー開発が間に合ったのは300年以上も前に、教会を中心として世界中の企業が核エネルギーと自然エネルギーの利用を研究したお陰だと言いたいらしい。
実際、砂漠化が進む地域では水に対する利権を求めて小さな小競り合いが始まっている。
このままでは新たな世界大戦へ突入する危険があると教会側が警告する。
「だったら雨乞いでもすればいいのに…。」
独り言のつもりで呟いたのに…。
「そういうのは魔女の領域だ。」
と明がカルロに怒られる。
(宗教って本当に面倒だなぁ…。)
宗教に制限される祓魔師や司祭は能力があっても中途半端にしか使えない。
「悪魔を利用しようとする行為よりも魔女の方がまだマシじゃん。」
「悪魔でなく神の子の力を使う予定だったんだ。」
カルロは頭が悪いらしい…。
カルロの爆弾発言に司祭達がザワつく。
「神域に手を出せるほど教会はいつからそんなに偉くなったのかしら?」
すかさず明姫が司祭達を責める。
「教会は神域の一部だ。」
カルロが開き直る。
「力無きものが…、戯れ言を…。」
「俺にもちゃんと力はある。俺はモンクだからな。」
「ならば貴方の力を示しなさい。貴方が勝てば教会の望みを叶えましょう。ただし、負ければ、それなりの代償を覚悟して頂きます。」
こんなにキレてる明姫を見るのは久しぶりだ。
かくして、修道士VS陰陽師の対戦の火蓋は切って落とされたのだった。




