ポンコツ
「娘さんをご紹介して頂けますか?」
不躾に明達のテーブルへと向かって来た金髪が明菜に娘を紹介しろと言い出した。
「断るわ…。」
明菜が明よりも長い髪を肩の後ろへと払う仕草で向こうへ行けと反発する。
金髪は一応、明菜に話し掛けてはいるが刺すような視線は明に向いたままだ。
「随分と警戒をされていますね。」
「私の国じゃ可愛い一人娘をナンパなイタリア男に紹介する母親は居ないわよ。」
「なら、陰陽師としては?」
「たかが修道士に?」
明菜が金髪を馬鹿にしたように鼻で笑えば、金髪はますます明に悪意を向ける。
修道士に能力は無い。
あれば司祭という役職を得て祓魔師として活動する。
能力を持たぬ修道士に司祭と同列の陰陽師が挨拶をする義理はないと明菜が冷ややかな目で語る。
「明…、今夜は疲れたでしょ?ホテルに帰りましょう。乱暴な修道士が強引に連れて来たせいだわ。」
「そうは行きませんよ。」
金髪が明菜の腕を掴む。
明菜の顔が歪んだ瞬間、金髪の顔が歪んだ。
「悠一っ!?」
明菜が叫ぶ。
金髪の腕を後ろ手に拗じり上げてるのは、間違いなく悠一である。
「やっほー、明ちゃ~ん。」
悠一の後ろから山崎が顔を出す。
「遅い…。」
山崎だから文句くらい言わないと気が済まない。
「飛行機の着陸許可が降りなかったんだよ。今、お婆ちゃんと陰陽の兄さんがバチカンの教会本部に正式に抗議してる最中だよー。」
「業平も来てるの?」
「当然でしょ。古都では未成年誘拐事件の扱いになってるもん。」
古都に帰れば、明は誘拐された被害者となる。
「ママも?ママも誘拐犯の扱いになるの?」
「ならないよ。むしろ誘拐犯から明ちゃんを保護した英雄扱いになるよ。」
「なら良かった。」
「てか…、そろそろ誘拐犯の一人を助けてあげた方がよくない?」
「へ?」
山崎と2人で金髪を見る。
今にも気を失いそうに見えるくらい顔が青くなり、脂汗を流してる。
腕はずっと背中の方へ拗られたまま…。
「そろそろ…、離してあげたら?」
「どうやら古澤さんが固まってんだよ。」
金髪の後ろに居る悠一を確認する。
「悠一♡久しぶり…。」
固まった悠一に寄り添う明菜…。
なのに金髪よりも更に青い顔をして金髪以上の脂汗を流す悠一…。
「何…、あれ?」
子供ながらに見てはいけないものを見てる気分になる。
「古澤さん…、奥さんの前だとポンコツになるんだって有名な話らしいよ~。」
明菜の前では、完全に思考を停止する悠一…。
どうやったら、この夫婦から明が生まれたのか新たな疑問しか浮かばない。
「お婆ちゃんからの伝言で、明ちゃんを見つけたら教会に連れて来いって言われてるけど…。」
山崎が明に言う。
「私がママを連れ出すから、山崎があのポンコツと誘拐犯を連れて来てね。」
「うわっ、面倒な事は全部俺…、俺だって明ちゃんのママの方がいいよ。」
「うるさい…、てか、アンタ学校は?」
「忌引きで休んだよ。」
山崎の周りは何人死んでるんだと言いたくなる。
「ママ…、そのポンコツから離れて…、お婆さまと合流するわよ。」
「やだぁ…、お婆ちゃまは絶対に怒るもん。悠一と一緒じゃないとやだぁ…。」
「ポンコツのままで連れてっても3倍増しで怒られるだけだよ。」
「ゔっ…。」
諦めた明菜が悠一から離れる。
「後はよろしくね。」
山崎にそう言って明菜を連れてレストランから出る。
「あっ!」
明姫が待つという教会へ向かう途中で明菜が変な声を上げる。
「何?」
これ以上のややこしい状況は嫌だと恐る恐る明が問う。
「レストランの支払い忘れた。」
「ああ、それならポンコツが払うんじゃない?」
明の分を悠一が勝手に支払うのはいつもの事だ。
「メディチの分も?」
「それは…、ないかな…。」
誘拐犯に無銭飲食の罪が追加されるだけだ。
誘拐犯なんかどうでもいい明は業平に無事を知らせたい一心で先を急ぐだけだった。




