旅立ちの日に…
「じゃあな。」
日曜日の朝…。
国際空港の搭乗ゲートの向こう側で楓が手を振る。
前だけを向いて歩く楓の背中を見送る美里が寂しいと言って涙を浮かべる。
「すぐに、また会えるよ。」
楓なら大丈夫だと明が美里を慰める。
あれから平和な日が続いている。
美里が明の学校へ無事に編入して馴染んだのを確認してから楓は旅立った。
空港の外は雨…。
古都に空港が無いので、明達は旧摂津の国にあった港町の空港へと来てる。
「また雨ですね…。」
残念そうに美里が言う。
港町へは土曜日から来てる。
旅立つ楓の為に色々と買い物をしたり、最後の思い出作りをする為だった。
ホテルに泊まり、3人で最後の夜を過ごした。
今年は、少し早めの梅雨入り…。
連日の雨に美里も明もうんざりする。
「早めに帰るぞ。」
いつもは帰りたがらない悠一が明達を急かす。
「もう少し遊んで行く?」
悠一を無視して美里に聞く。
「昨日、いっぱい買い物をしましたし…。」
美里が苦笑いを浮かべる。
昨日の悠一はいつも通りの悠一だった。
明だけにでなく楓や美里にも服やらバッグやらを買い与えて、夜もホテルの三つ星レストランで大盤振る舞いをするほど悠一ははしゃいでいた。
その悠一が空港に来て、しばらくするとソワソワとし落ち着きを失くしてく。
いつもならヘラヘラとして余裕たっぷりな表情しか見せない悠一が空港で行き違う添乗員の女性にすら見向きもせずに苛立ちすら見せるのは始めてだ。
「具合が悪いなら…。」
山崎と先に帰れば良いと、珍しく明から悠一に声をかけようとすると、明の前を横切る人に軽く当たる。
「ごめんなさい…。」
反射的に一歩引いた。
相手は、冷たい目で明を見下ろす。
金髪、碧眼で背の高い男。
嫌な感じがするのは、その男の服装だ。
詰襟の黒いシャツに黒のスーツ…。
男を中心に3人の男女が取り巻く。
全員が金髪か赤毛で海外から来たとわかる。
その、お取り巻きがサングラスに黒のスーツ、黒のネクタイと明には同じみの姿でなければ明も知らぬ顔をしたはずだった。
(陰陽局員?)
一瞬の戸惑いに立ち止まった明へと、ぶつかった男がガン見の早足で向かって来る。
明の足が竦み動けなくなる。
「ほらほら、迷子になるから早く行こう。」
山崎が明の手を引き、おかしな外国人と同じくらいの早足で歩き出す。
「空港を出たら駐車場までダッシュね。」
小声で山崎が言う。
「美里ちゃんは?」
「古澤さんが先に連れて出た。」
男達が明達の後ろをついて来る。
「あれって何者?」
「詳しくは車で…、園田さんの車に乗ったフリして俺の車に移動するよ。」
明達が乗って来たのは園田の車。
目立つ黒塗りの高級車を囮にして逃げる。
「ダッシュ!」
山崎の掛け声で走り出す。
男達も当たり前のように走って来る。
3階建ての駐車場の2階に園田の車がある。
明達が車の横へ入り込むと園田がわざとらしくドアを閉めてから急発進で駐車場から飛び出した。
明と山崎は隣の車の影に隠れる。
男達は何かを話してから園田の車を追う。
「行った?」
「みたい。」
山崎の車は3階にある。
いつもの小さな赤い車…。
車には既に悠一と美里が乗ってる。
「説明してよ。」
見知らぬ黒ずくめの男達に追われる覚えはない。
今は古都へ向けて、山崎がのんびりと車を走らせているところ。
後ろから、怪しげな車がついて来てないのを確認した明は悠一に説明を求める。
「明はあいつらが何者かわかったか?」
説明の代わりに悠一は明に質問をする。
「陰陽局の人間?」
「惜しい…、あれは祓魔師、海外版陰陽師ってやつさ。」
「あれが祓魔師なの?」
「祓魔師についてはある程度知ってるだろ?」
明が一応は頷く。
「祓魔師はねー…。」
山崎が美里の為に説明する。
陰陽師と祓魔師の大きな違いは宗教だ。
陰陽師は宗教にこだわりがなく、手段として有効ならば利用するが、祓魔師は宗教に利用される側となる。
「その祓魔師が、なんで私達を追い掛けて来るのよ。」
「たまたまだ。明が陰陽師だと気付いたんだろ。今、祓魔師は宗教の限界を感じてて、陰陽師を欲しがってるのが現状だからな。」
「陰陽師を欲しい?」
「とにかく古都に戻って、婆さんと話すのが先だ。」
悠一が口を噤んだので、それ以上の事は聞けないまま明達は古都へ戻る事となった。




