責任
「護り子はどう思う?」
業平では頼りないと青龍が言う。
「それは確かに…。」
明も納得する。
「明っ!?」
こんな形で明に捨てられるとか、たまったもんじゃないと業平が慌てふためく。
「大体、この男は護り子の番を名乗ってはいるが、未だに護り子とは契った様子もない。今なら新しい番を選び直す事も可能だ。考え直さぬか、護り子よ。」
「そうですねー。業平って陰険で心も狭いし…、番としては考え直すべきかしら?」
明も業平を庇うつもりがないらしい。
「陰険で心が狭いって…、どこがだよ。」
出来る限り明を甘やかして来た業平が憤慨する。
「楓ちゃんの件でも頭ごなしに駄目駄目言うじゃん。」
「当たり前の事を言っただけだろ!」
「楓ちゃんにとっては一生の問題なんだよ?」
明と業平のいつもの口喧嘩に青龍が目を細める。
「楓とは?」
「私の一つ下の女の子なのですけど、業平はそんな女の子の小さな夢を否定するのです。」
一方的に悪者にされては困ると業平は
「仕方がない事なのです。その少女は異能者で他者に危害を加える危険性があるのです。」
と青龍に訴える。
「楓ちゃんは危険じゃないわ。」
「なら明が責任を持てるのか?」
責任、責任…。
毎度の言葉に反吐が出そうだと明も口調が荒くなる。
「ああ、そーですか!だったら私が楓ちゃんの旅に同行すれば業平は満足ですか!」
「そんな話はしてない。」
「してるでしょ?全部、私の責任だって…。だったら業平なんか…。」
自分には必要ない…。
そうやって言ってはいけない事を言いたくなる。
これでは鬼化の二の舞だ。
「もう良い…。」
先に明を制したのは青龍の方だ。
「その楓という娘を連れて来い。」
青龍が不機嫌な顔で業平に顎しゃくる。
「ごめんなさい…、青龍様…。」
玄武はともかく、青龍の前で業平とやらかすべきではなかったとわかってる明がしょぼくれる。
「なに…、護り子の番に少し手本を見せてやるだけだ。」
青龍は穏やかな表情に戻り、再び酒を呑み出す。
業平は立ち上がり、居間の戸襖を開く。
「「「あっ!?」」」
開いた戸の前に悠一と山崎、それに重なるように楓と美里が居る。
「何をしてる?」
こめかみをピクピクと痙攣させる業平が聞く。
「青龍様が来てるって聞いて…、美里ちゃんの陰陽師勉強の為の見学?」
山崎がテヘペロと言い訳をする。
「龍は居ないよ。楓ちゃん…。」
「玄武は亀だったろ。だったら青龍は龍だ。もっとよく探せよ。」
美里と楓のお目当ては伝説の龍らしい。
神を目の前にして、実に失礼な会話をしてる。
「美里ちゃん、楓ちゃん、こちらが青龍様。安倍家のお客様に失礼のないようにしてちょうだい。」
毅然とした態度で明が2人を窘める。
美里も楓も口は閉じたがまじまじと堅物サラリーマン風の青龍を眺める。
「どちらが楓という娘だ?」
青龍が問う。
「あたしだよ。」
美里を庇うようにして楓が青龍の前に出る。
「ふむ…、古き血を引く者か…。」
「わかるのか?」
「私は神だぞ。」
「青龍様ってすげーなぁ。明…。」
青龍の前でも物怖じしない度胸が楓の凄いところ。
「さて楓…、事情は護り子から聞いた。お前は旅に出たいと言っている。もしも、その旅でお前が古き血の力を使えば問題になると番が言っておる。」
「あたしは力なんか使わねーよ。」
「ならばお主は力を失っても構わないという事か?」
「それって、言葉とかわからなくなるのか?」
「身体的に得た技術はそのままだ。わかりやすく言うならば、お主がゴーレムを作る力を封じられてもお主の意志は変わらないのかと尋ねている。」
危険だと心配するなら封じてしまえば良いと青龍が簡単に言う。
「そんな事が出来るのですか?」
思わず明が青龍に聞く。
青龍は呆れた顔で
「護り子が鬼を封じるのと同じだ。術返しで力を封じられた陰陽師など珍しくもなかろう。」
と答える。
「厳密に言うと、楓という娘の力の流れを封じる。さすれば力を使う事が出来なくなる。それで問題は解決だと思うが、どうじゃ?」
今度は青龍が業平に問う。
陰陽の能力は体内を流れる霊力を集めて具現化する。
その流れを止めてしまえば霊力はそのままで力だけを封じられる。
そんな簡単な答えにすら明を導けない番では意味がないと業平が青龍から突き付けられた瞬間だった。




