夢へ
「お待たせして、ごめんなさい。」
学校のロータリーに待たせて居た車の後部座席に乗り込み、運転手の園田弟へ謝罪する。
「明ちゃ~ん。」
何故か悠一が助手席で尻尾…ではなく手を振ってる。
学校は出禁だったくせに…。
安倍家で同居が許された悠一は学校も出禁解除だと勝手に思ってるらしい。
「テストはどうでしたか?」
明姫に報告する必要がある園田弟が聞いて来る。
「問題なく終わりました。」
追試であっても、ほぼ満点に近い明だから成績にはほとんど影響がない。
「明ちゃん…、パパの話も聞いてよ。」
スルーを貫く明に悠一が焦れる。
「この後は?」
園田弟が聞いて来る。
「家へ…。」
と明が言いかけると悠一が
「爺さんが今日から喫茶店を営業してるよ。そこで楓ちゃんと美里ちゃんが待ってるんだよ。だからパパがわざわざ迎えに来たのに…。」
と騒ぎ出す。
「そうなの?」
悠一はスルーしたまま、園田弟に確認する。
「左様でございます。」
苦笑いをする園田弟も意外と意地悪だ。
「なら、お爺さまのお店へ…。」
「あ~きらちゃ~ん…、パパのお話を聞いて~。」
流石にスルーするのさえ面倒臭いと思う。
「言いたい事は五文字以内で簡潔に…。」
「明ちゃん、酷い…。」
「終~了。」
「待ってよ。明ちゃぁん!」
「だから、何?」
「詳しくは爺さんの店で話すよ。」
だったら始めから、そう言えっ!
ただでさえ花蓮のせいで苛立ってる時に悠一とは会話をしたくないと思う。
祖父、忠が営む喫茶店で1つしかないテーブルには美里と楓、山崎が座ってる。
4人掛けのテーブルに悠一が座ってしまった以上、明はカウンター席へ座るしかない。
「明ちゃん、テストはど~だったぁ?」
のんびりと山崎が聞いて来る。
「うちの明だよ?楽勝に決まってる。」
何故か悠一が勝ち誇って山崎に答える。
暗記力に強いのも陰陽師の特徴と云える。
術式によっては本一冊分の祝詞を一言一句間違えずに覚える必要があったりもする。
それに比べれば教科書の一部をざっと暗記するくらいは確かに楽勝である。
「それよりも美里ちゃんはうちの学校の編入試験の準備とか大丈夫?」
何かあったのか、美里がカチコチに固まっている。
「美里ちゃん?」
「美里ちゃんはねー…、初めての古都で、あまりの人の多さに酔ったんだよ。」
山崎がストローで美里の頭をつつく。
明が学校に居る間、美里達は古都の街見学と買い物に出掛けたらしい。
山崎が車を出し、悠一が荷物持ち…。
今まで、ほとんど街中へ出た事がなかった美里には、古都の道路を埋め尽くす車と人の多さはちょっとばかし衝撃が強すぎたらしい。
「人…、人…、人…。しかも変な気配が…、それをいっぱい付けた人が…、平気な顔でたくさん…うじゃうじゃ。」
浅桐のよう亡くなった身内を背負った人など明達には珍しくもないが美里は恐怖に感じてしまう。
「美里ちゃん…、落ち着いて…。」
「明さんの学校で、私はやっていけるのでしょうか?」
「大丈夫だと思うよ。うちの学校、一学年が60人って決まってるから、他の学校よりも学生が少ないし…。」
「60人!?」
今にも美里が気を失いそうな顔をする。
「しっかりしろ!美里っ!」
バンッと楓が美里の背を叩く。
昨日と違い、楓の表情は明るい。
「やっぱり楓ちゃんもうちの学校に来ない?その方が美里ちゃんも心強いと思うし…。」
美里から楓を引き離すより一緒の方が良いと思った。
が…。
「いや、あたしは学校とか行かない。」
楓があっけらかんと言う。
「行かないって…。」
「うん、行かない。その代わり、旅に出ようと思う。」
「旅?」
「新が見たがってた世界を見て回るんだ。ヒッチハイクとかして…。」
「それって、そんな簡単な事じゃ…。」
「アルバイトとかを現地でする。その国の暮らしとか見て回るのも面白そうじゃん。」
にっとご機嫌に楓が笑う。
「でも言葉とか…。」
「楓ちゃんなら大丈夫です。文字を書くのは苦手ですけど…、楓ちゃんは耳が良いから…。」
立ち直る美里が楓を応援する。
楓もやはり陰陽師の特徴を持っていて言葉なら5分も聞けば話せるようになるらしい。
「問題はさぁ…。」
山崎の一言で全員が明を見る。
「まさか…。」
明の頭には嫌な予感しかしない。
「頑張れ…、明…、パパが応援してるよ。」
悠一の言葉に楓も美里も期待した顔をする。
期待されても困る明は、無責任な言葉を吐くに悠一を殴りたいという衝動に駆られていた。




