理不尽
「…という事で、今回の事件について全員に守秘義務が課せられる事になります。」
明姫が場を引き締める為に発言する。
陰陽局員である業平には元々守秘義務があるが、悠一や山崎、楓と美里には守秘義務が無い為、新たに守秘義務の誓約書を書かせる事になるからだ。
「俺はいつもの事だからいーけどねー。」
のんびりと言う悠一が明姫に楓達を見ろと顎で促す。
美里はともかく楓は納得してない雰囲気だ。
「元々存在しない人間だから…、新は居なかった事にしろって話なのか?」
楓が明姫を睨む。
明姫を庇う業平が
「塾の存在も含めてだ。全てを無かった事にする。代わりに君達は、この先の生き方を自分で選ぶ事が出来るようになる。」
と説明する。
「黙って家に帰れって事か?」
「それは違う。もし、君達が陰陽師を目指すなら、引き続き陰陽局が支援する。一般人として生きるにしても学校とか全て陰陽局が用意する。」
「つまり、一生見張られて生きろって言ってんだろ。」
チッ…と楓が舌打ちをした。
「ねぇ、楓ちゃん…、新君の事…、楓ちゃんはどうしたいの?新君を殺人鬼だと世間に公表してでも、新君の存在を世間に認めさせる事に意味があるの?」
冷たいようだが、明は楓にそういう言い方で納得させるしかない。
「違う!あたしは…。」
「新君という優しい友達が居た。それは私達だけが知ってればいい事…。私は彼が好きだった。世間にそれを理解して貰えなくても構わないわ。」
「それは、あたしだって同じさ。」
楓が明から目を逸らす。
「美里はどうするつもりだよ。」
美里の意見を聞いてから楓も考えると言いたいらしい。
「私は…。」
美里がチラリと悠一を見る。
「古澤先生にもっと陰陽の事を教わりたいです。」
美里がギュッと目を瞑り、力強く発言する。
「美里ちゃん!?それは止めた方が…。」
美里の爆弾発言に明が狼狽える。
「いやです。今回の事件でよくわかりました。実家の神社で神主になるにしても私はあまりにも弱すぎます。おじいちゃんも、今の時代は神主になるにしても大学まで行って、もっと世界を勉強しろって言ってくれました。だから私は、もっと強くなって新さんみたいな友達を救える陰陽師になりたいです。」
美里の勢いに明は何も言えなくなる。
「では、美里さんは安倍家でお預かり致します。学校は明と同じ学校に転入すれば良いでしょう。あの学校なら普通に短大へ行けますし、頑張れば好きな大学への進学も可能です。後は古澤さん…、陰陽師の先輩としてちゃんと美里さんの面倒を見るように…。」
まさかの明姫の発言に明は気を失うかと思う。
「お婆さまっ!」
「言い忘れましたが明さん…、貴方の処遇についてですが、自宅で謹慎という訳にもいかないので、今後の貴方のお目付け役として新たに古澤さんと山崎さんが加わります。それゆえ、彼らも安倍家で預かる事となりましたから、そのつもりでいるように…。」
「お目付け役って…。」
「元々、古澤さんは明菜のお目付けでした。その娘である明の今回の鬼化の事実は陰陽局も周知の事実。今後は貴方が鬼化する前に、その原因を排除する為のお目付け役ですよ。」
「でも…。」
鬼化は、ちゃんと業平が止めてくれたんだから、それでいいじゃんと言いたいところだが、一度決めた事を明姫が簡単に覆すとは思えない。
要するに、今までの過保護が更に超過保護な状況へと変化しただけだ。
「明…、大丈夫…、私もここに帰って来るから…。」
忠が明の頭を撫でてそう言う。
再び忠と暮らせるのは嬉しいが、山崎と悠一まで一緒なのは耐えられない。
「まだ時間はあります。楓さんはここに滞在して、ゆっくりと考えなさい。美里さんは編入試験に備えて準備を…、明は明日から学校へ行き追試を受けるように…。」
「明日からですか!?」
「当然です。赤点で国立大学へ行くつもりですか?出席日数の事もありますし…。」
「はい…。お婆さま…。」
世の中は理不尽である。
明姫の命令で休んでいた学校のはず…。
一言でも文句を言えば、明姫の説教は長引くだけだと諦めるしかない状況だった。




