今後の処遇
「おかえりなさい、明さん。」
数週間ぶりに帰って来た古都の安倍家の屋敷…。
玄関に入るなり巫女服を着た小さな少女が明に抱きついて来る。
兵法 美里、神社の跡取り娘だ。
塾に居た頃は人見知りが強かった美里だが、今は随分と明に懐いてる。
「ただいま、美里ちゃん。」
そう言って美里の頭を撫でる明を微妙な目で見るヤンキーが居る。
知里 楓。
ヤンキースタイルを好むわりに正義感が強く真っ直ぐな性格の彼女は、今回の事件で白河 新にも明にも裏切られたような気持ちになったのだろう。
「美里、明はまだ疲れてんだから…。」
と言って美里を明から引き離そうとする。
「楓ちゃん…。」
「わかってる。新が何をしたのか聞いたし…。明がその為に皆んなに嘘をついたのも…。でも、あたしは頭が悪いからさ。簡単に割り切ったり納得したり…、とにかく時間がかかるんだよ。」
少し赤い顔をする楓が明から目を逸らす。
「事件の詳細と…、今後の君達について話し合いたい。」
明の許嫁であり陰陽局員として葛木 業平が美里と楓に言う。
「ゔっ…。」
業平が放つ久しぶりのエンジェルラダーを喰らう美里が立ちくらみを起こしてよろめく。
「美里ちゃん!?」
「美里っ!?」
明と楓で美里を支えるが業平はため息になる。
「頼むから…。」
業平としては、いちいち失神とかされても困る。
「業平、業平も寝てた方が良くない?」
本当なら、まだ入院中のはずの業平だからと明が言う。
「そうそう、陰陽局の兄さんは寝てた方がいいよ。」
「…だな。」
何故か、明の父親である古澤 悠一とその助手を名乗る山崎 浩司までもが安倍家に上がり込んで来る。
「アンタ達は帰れ!」
慌てふためく明。
この2人が居るところを安倍家当主であり祖母の明姫が見たら何を言われるかたまったもんじゃない。
「大丈夫だ。とにかく全員、上がって話をしよう。」
幾ら広いとはいえ玄関でガヤガヤとしても仕方がないと業平が先陣を切って安倍家の客間へと向かう。
(居候のくせに…。)
安倍家では、まだ未成年の明より表面上だけとはいえ業平の方に権限がある、
明を子供扱いして偉そうにする業平が気に入らない明はフンとそっぽを向いてから業平の後へと続く。
安倍家は広い。
中庭があり、渡り廊下で屋敷と屋敷を繋いでる。
いつもなら主屋の和室の客間を使うのに今日の業平は、わざわざ渡り廊下を抜けて南側にある別棟の客間へと進んで行く。
2000年以上の歴史を持つ安倍家の屋敷。
そちらは200年ほど前に建てられた比較的、新しい建物で純和風の安倍家では珍しく洋式の内装を施した造りになっている。
「お爺さま、お婆さま。」
あまり使われた事のないリビングのソファーには祖母の明姫と祖父の忠が座ってる。
明を見て立ち上がった忠が両手を広げるので明は迷わずにその腕の中へと飛び込んだ。
「おかえり…、無事で何よりだ。」
「心配をおかけして…、ごめんなさい。」
明は忠には素直だ。
「コーヒーは飲むかい?」
「いただきます。」
喫茶店を営む忠のコーヒーは絶品だ。
思わず明から笑顔が溢れる。
大きなアンティークのソファーに全員が座り、忠の入れたコーヒーが並ぶと、重かった口を最初に開いたのは安倍家現当主である明姫だった。
「蝦夷の陰陽塾は閉鎖が決定しました。それから事件の詳細を陰陽局員である業平さんに説明して貰い、今後の皆さんの処遇を決めたいと思います。」
明姫の重い口調から、誰もがふざけてる場合ではないと察しがつく。
今後の処遇…。
いつものお説教レベルでは済まない状況だと明は忠に助けを求める視線を送り続けた。




