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徒然なるままに陰陽師  作者: Noise
自由気ままに
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父親



「まだ着かねーのか!」


後部座席の悠一が山崎が座る運転席の背を蹴った。

さすがの山崎もキレる。


「韋駄天の札を使ったって1時間はかかるんすよ。なんなら車停めますから古澤さんが運転しますぅ?」


韋駄天の札を車のタイヤに貼り、自分の霊力を送り込めば、車は通常の3倍のスピードが出るようになる。

もう1時間近く札に霊力を送り続けながら、車を出来るだけ安全に走らせてる山崎は体力も気力も限界に近い。


それでも悠一は山崎にとっては父親の様なものだ。

孤児だった山崎が『普通の子と違って気味が悪い』という理由だけで一般の施設を放り出された時に塾へ連れてってくれたのも、やさぐれて塾にも馴染めずに居た山崎を唯一、理解してくれたのも悠一だ。


大学に行く事も教員資格を取る事も悠一が勧めてくれたから頑張った。


『お前は自由だ。陰陽師になろうとならなくても自由に生きられる道を選べ。』


能力があろうと無かろうと山崎は山崎だと言う悠一を信じてついて来た。


明に初めて会った時


『あの子には自由が無い。もし、あの子が自由になれるとしたら、きっと人ではなくなる時だけだ。』


悠一は悲しげにそう呟いた。


明を可愛いとは思う。

ちょっと生意気な妹のような存在。

悠一が明を溺愛してるのも知ってる。


『もしも山崎君が明と結婚したら、本当に俺の息子になるんだよな。』


酒に酔った悠一が照れたように山崎に言った言葉だけど嬉しかった。

息子になれるなら…。

悪くないとも思った。


なのに肝心な事を悠一は教えてくれない。


「明ちゃん、そんなにヤバい状況なの?」


後部座席で黙り込んでしまった悠一に聞く。


「なぁ、山崎君…。」

「はい?」

「なんで俺は普通の人間なんだろうな。」


充分に普通ではない中年男が変な事を言い出す。


「いや…、普通じゃないっしょ?」

「車…、停めろ!」


悠一の命令で山崎が急ブレーキをかける。


「なんなんすか!?一体…。」

「空が…。」


悠一が勝手に車から降りる。

塾までは後5分程度という距離まで来てる。


悠一のやる事成す事が理解出来ない。


「なんなんだよ…。」


車の前に立ちはだかる悠一を追うように車から降りた山崎が一瞬言葉を失った。


「!?」


陰陽塾があると思われる山頂付近の空が燃えるように真っ赤になっている。

バチバチと赤い稲妻が走り、ゴゴゴと地鳴りがする。


山頂付近は黒い瘴気に覆われており、赤い稲妻はその瘴気を攻撃するように山頂へ落ちてるようにも見えた。


「鬼道が…。」


真っ青な顔をする悠一が呟く。


「明ちゃんが鬼を呼ぶつもりなのか?」

「違う。明が鬼に堕ちる。堕ちれば、あの子は鬼の花嫁となり鬼の世へ行く。それが安倍と鬼との契約…、鬼の力を使う為に交わした約束なんだ。」


初代安倍家当主が交わした契約。

鬼に堕ちた娘は鬼王の花嫁になる。

以来、安倍家では女の子しか生まれない。

稀に男の子が生まれても、能力を持たずに分家へと成り下がるだけになる。


別に女人家系でも問題はなかった。

本家の傍系として、婿養子を取りながら代々の力を密かに受け継ぎ続けるだけの事だった。


女人家系になってからも歴代当主は誰も鬼に堕ちる事はなく、契約は2000年以上に渡り守られて来た。


その契約に陰りが出たのは明が生まれた日だった。


陰陽師は占い師でもある。

誰もが同じ結論に達した。

明の人生には必ず黒い闇が付き纏うと…。


忠は詐欺師の戯れ言に過ぎないと明に対する予言を無視する決断をした。

明姫は明を人として現世に留める道を選び、悠一は明の為に黒い闇と戦う決断をした。


それぞれが明の為に出来る事を選んだはずだったのに…。


「なんで俺は…、明の傍に居ないんだよ。」


悠一が道路へと崩れ落ちる。

山崎には悠一が諦めたように見えた。


「ふざけんじゃねぇよ。」


腑抜けた父親なんか要らないと思う。

山崎が欲しかった家族は明が真ん中で笑ってる家族だ。

自分の居場所は、その端っこでも構わないとさえ思っていた。

それを悠一に放棄されてしまえば山崎が欲しかった居場所すら失くなる。


「しっかりしろよ。アンタ父親なんだろ!明ちゃんを救えるのはアンタしか居ねえよ。俺が連れてってやるから…、明ちゃんが居るところに連れてってやるから…、例えそれが鬼の世でもちゃんと連れて行くからさ。」


山崎の顔に温かい雨が降ってる気がした。

生まれて初めて家族の為に涙を流してるのだと山崎が気付くまで、もう少しだけ時間が必要だった。



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