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徒然なるままに陰陽師  作者: Noise
自由気ままに
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冷静に



「玄武様…。」


息が苦しいと伝えたい。

かなり上空まで玄武が飛んだ。

ただでさえ山頂近くにある塾の更に上空を猛スピードで飛ぶ玄武の背は空気が薄く明には辛い。

今の玄武は甲羅に掴まる明を乗せられるほどまで大きくなっている。


「すまんな、嬢ちゃん。儂らの姿を人に見られる訳にはいかんかったんじゃ。」


あれから5分も経ってない。

だけど玄武はもう塾の上空にまで着いている。

まだ夕刻まではかなりの時間があるはずなのに、塾の周りでは大気が歪み、真っ黒な雲に覆われて夜のような闇に包まれている。


「例え僅かでも儂が守護した地をこんなに荒らすとはな。」


玄武からは怒りを感じる。

塾の周りを取り巻く大気は(よこしま)で悪気を大量に含んでいる。


(まるで瘴気の海…。)


荒くれるドス黒い大気が波のように塾へ向かって押し寄せてるように見える。


「玄武様、塾へ降りられる?」

「今、安全な場所を探しとる。」

「何処でもいいよ。この大気の中に安全な場所なんか、きっとないから…。」

「だったら、尚更、お前さんは降ろせん。」

「降ろしてくれないなら飛び降りるよ。」

「お前さん…、神を脅す気かや?」


迷いに迷った玄武がだだっ広いだけで何も無かったグランドへと降り立つ。


「塾に居た人達は?」

「散り散りになって逃げとるな。」

「なら玄武様は大気の浄化に集中してっ!」

「お前さんは?」

「新君を探すわ。」


認めたくない。

あの優しい男の子がこんな禍々しい大気で人を苦しめてるとか信じたくない。


「待たんか!」


玄武が呼び止めた時には明が玄武の背から飛び降りて校舎に向かって駆け出してる。

校舎の扉に手を掛けて、中で起きた惨劇を見るまでは明は新を信じてた。


「!?」


明の瞳に入って来たのはアイボリーの柔らかな色をしたリノリウムの床で出来た長い廊下。


普通の学校に比べて小さ目に造られた校舎の1階には予備の教室と教員室、塾長室が有り、その向こう側にある扉を抜ければ中庭を通る渡り廊下が寮へと向かってるのが明の記憶にある本来の姿だ。


今は、中庭へ抜ける扉が破壊され、アイボリーの床が赤く染まっている。

白い壁にもペンキをぶちまけた様な赤い液体が線を引き、床へと垂れてるのが確認出来る。


廊下の隅に倒れ込む浅桐…。

その浅桐を庇うように覆いかぶさった由利香の背は刀で切られたようにパックリと服が開き肉が裂けてるのが明にもわかる。


「大丈夫っ!?」


嫌いであっても由利香は業平の秘書だ。

見捨てる事は出来ないと駆け寄って声をかける。


「こ…むすめ…。」

「喋らないで…。」


明の手に由利香が流す血がベッタリと付く。


「逃げ…なさ…。」


言い終える前に由利香が意識を失くす。


幼い頃、誰かに教わった。


『まずは冷静に状況を判断する事。原因がわからずに、闇雲な力を使っても通用はしない。明は他の人より色々なものが見えてるだろ?』


大きな手が小さな明の頭をいつも撫でてくれた。

ずっと祖父の忠の手だと思ってた。

忠の言葉をちゃんと聞けば間違いがないから怖くない。


目をこらす。

何が見える。

おびただしい血…。

誰の血か?


浅桐は何かの衝撃で気を失っただけだ。

大量の血は由利香のもの…。


鬼斬りで剣術の達人でもある由利香を背中から一気に切り裂いたものが居る。

それは廊下に張り巡らされた大気の渦…。

かまいたちのように触れたものを全て切り裂く大気。


(アレには触れるな。)


大気の渦が守ろうとするものを探せ…。


渦が集中してるのは塾長室の入口。

壁沿いには渦がない。

だから由利香と浅桐は、今以上の攻撃を受けてない。


ゆっくりと壁際を移動する。

塾長室の入口から中の様子を覗いてみる。


床に倒れてる男…。

どう見ても首が半分千切れてる。

殺された男は塾長だ。


怖くない。


何度も自分に言い聞かせる。


脅えるな。

冷静に…。


明は陰陽師である。

人が脅える妖や鬼を祓う者だ。

その誇りだけが今の明の支えだった。



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