カキフライ
「フェリーに乗れないのが残念。」
松林が連なる島を歩く明が笑顔を新に向ける。
ランチの後は腹ごなしだと絶景と言われる島を皆んなで散歩中だ。
「仕方がないよ。時間がないからさ。」
明を眩しそうに見る新が泣きそうな顔をする。
「新君、何かあった?」
「別に何もないよ。」
塾を出る前に新だけが塾長に呼ばれた。
それから新の様子がおかしい事くらい明にもわかる。
「古澤先生はさ…、僕達は自由だと言うけど…、本当に僕達は自由なのかな?」
山奥に閉じ込められてる塾生。
不安定な思春期の精神で自分の能力を暴走させれば、こんなに綺麗な海もあっという間に破壊されてしまう。
頭ではわかってても納得は出来ない。
「僕はね、もっと広い世界が見たいんだ。」
「結構、欲張りなんだね。意外な気がする。」
「当たり前の欲だよ。もっと高いところから、全ての世界を見下ろしてみたいと思うのは…。」
まるで天帝の言葉だと明は思う。
そして、それは人が望んではいけない事。
一つ間違えれば、全てを欲して飲み込んでしまう強欲な鬼と変わらない。
その事を新に理解させる為の言葉が出て来ない。
新の夢は明の夢よりも大き過ぎる。
「僕と、一緒に…。」
行かないかと新が明に手を差し出す。
その手を取り、新を人として留める役目を明に望んでる新の気持ちが少しだけわかる。
それは明が業平に望む手と同じ。
でも新が望む手は恋とかじゃない。
ただ純粋に、人として生きる為の手に縋りたいと恋のように切望する新が居る。
「業平…。」
新に聞こえない声で明が呟いた。
胸が苦しくて泣きたくなる。
何故、新の手が業平の手じゃないのか?
孤独が嫌だと明の手を求める男の子を救う事が出来ないほど明も子供なのだと痛感する。
突風が松林を抜けた。
明の視界から一瞬だけ新が消える。
「そろそろ街へ行くぞ~。」
悠一が明達を呼ぶ。
「僕、飲み物を買ってから行くよ。」
明の背を押して新が言う。
「うん、待ってるよ。」
新なら大丈夫。
そう思う事で明は自分の中にある不安を誤魔化す。
その考え方が間違いだと気付いたのは1時間もしてからの事だった。
「新、遅すぎねぇ?」
駐車場で待つ楓が苛立ちを見せる。
「カキフライで腹壊したとか?」
山崎が悠一をチラ見する。
ランチは海鮮丼とカキフライ。
悠一が張り切って注文した品だ。
「俺の腹は壊れてないよ。」
嫌そうに山崎を見返す悠一…。
時間が経つにつれ、明の不安がますます募る。
『嬢ちゃんっ!』
明の頭に声が響く。
「玄武様?」
明が空を見上げる。
日に照らされた亀のシルエットが見える。
『儂に捕まれっ!』
20cmもない亀がそう叫ぶ。
無意識に明が玄武へと手を伸ばす。
玄武の甲羅を掴むと一瞬で明は空へと舞い上がる。
「明っ!」
焦るのは悠一だ。
玄武の声は明にしか聞こえない。
「クソッタレがっ!山崎、車を出せっ!園田は楓と美里を見てろ。この辺りもヤバくなるようなら蝦夷を出て首都の安倍家に2人を連れて行けっ!」
山崎が運転する車に乗り込みながら悠一が命令する。
「古澤先生っ!」
「今は園田に従え。」
何が起きたかわからずに狼狽える楓と美里を宥めてる余裕すら今の悠一にはない。
「山崎っ、早く車を出せっ。」
悠一に言われるままに山崎が車を発進した。




