友達
「誰がなんと言おうと古澤先生を尊敬します!」
美里が拳を握って叫んだ。
その声はエコーが効き響き渡る。
女子寮の広いお風呂場の湯船では亀が浮いている。
「あれは尊敬しない方がよくない?」
湯船に浸かる明が興奮する美里に冷たく言う。
「でも、山崎も意外と凄かったな。あたしらが投げた札、全部1人で祓っちまうんだから…。」
楓も少しは山崎を認めるべきとか言い出す。
「いいえ、なんと言っても尊敬すべきは古澤先生ですよ。正しい魔除け札の使い方とか…、あの方に教われば私達は最強の陰陽師になれるはずです。」
「でも、美里は神社を継ぐんだろ?」
「それはそうですけど…、最近の神社は経営が苦しくて…。年々、氏子さんも減ってますし…。」
氏子とは神社が抱える信者の事。
それが減れば由緒ある神社でも成り立たないらしい。
もし、美里が強い陰陽力がある神主になれれば、氏子を増やす事が出来るかもしれないと張り切っている。
「それよりも…。」
お風呂上がりの楓と美里のいつも通りの服装を見て明が渋い顔をする。
「明日、その格好で街に行くつもり?」
スカジャン、ロングスカートのヤンキースタイルな楓はともかく、白い着物に赤い袴の巫女服である美里は悪い意味で目立ち過ぎると思う。
「だって、これしか持ってないのです。」
半泣きになる美里。
巫女服なら10着はあると言う。
「私の服を貸すから、今から部屋に来なさい。」
明よりも小さな美里なら明の服が着れる。
「面白そうじゃん。」
と楓も明の部屋へついて来る。
「明…。」
「明さん…、凄すぎます。」
明が自室のクローゼットの扉を開けただけで楓と美里が目を丸くする。
「そう?」
明からすれば普通の事。
靴は10足以上。
服は20着以上。
どれも、客船と首都で悠一と業平と山崎が明の為に競って買った最新ブランド物ばかりだ。
「お嬢様だとは聞いてたけど…。」
楓がまじまじと明を見る。
ちなみに、園田弟の車のトランクにはドレスと着物の一式が積んだままになっている。
「全部、貰い物だから…、楓ちゃんと美里ちゃんが気に入ったのがあればあげるよ。」
悠一の過保護で着ずに捨てる服は多い。
「なんでお嬢様が塾なんかに?」
楓が再び疑いを明に向ける。
「自由が欲しかったからかな?」
寂しげに明が笑う。
「自由?」
美里が不思議そうに聞く。
「うん、許嫁とか…、私の将来は全部決められてるの。私は普通の恋をする自由が欲しい。」
「許嫁…、もう決まってるのですか?」
「そう、決まっちゃってるの。」
「その許嫁の方と恋するとか?」
「そう出来ればいいんだけどね。でも、それって私の命令になっちゃう気がして怖いの…。」
古都では語る事のない明の本音。
「恋くらい出来るさ。明なら。可愛いもん。」
凹む明の頭をぐしゃぐしゃと撫でて楓が慰める。
明を慰めてくれるのは、いつもは忠の役目。
それを楓がしてくれるのが嬉しくて気持ちいい。
「じゃ、服を選んじゃお!」
「うぉ…、革ジャンあるし。」
「今の時期は暑いよ。」
「じゃ、上着はいつものスカジャンだな。」
「美里ちゃんはワンピース?エプロンスタイルならインナーとか可愛いのあるよ。」
「迷います~。」
古都の学校の友達とはこんな関係を持てなかった。
塾は陰陽師である明の立場を隠す必要がなく、いつも大人びた表情しかしない明が普通の女子高生として友達の服を選んで遊んでる。
その頃の寮の食堂では…。
「今夜は女子寮が騒がしいですなぁ。明日の外出で少し浮かれてるようなら注意をした方が…。」
塾長が陰陽局の業平に気を使う。
今は、塾長と業平が悠一達の報告を受けて会議中だ。
「塾長、大丈夫です。女子寮はそのままで…。」
他の教員に注意させようとする塾長を業平が止める。
悠一も同じ意見だ。
明が大声で笑ってる。
そんな姿は誰も見た事がない。
「そうですか…、では女子寮はそのままで…。問題は…。」
塾長がチラリと男子寮の方へ視線を送る。
悠一が難しい問題に挑むような表情をする。
「では、明日…。」
そう言って会議は解散した。
「明日はお願い致します。」
業平が悠一に頭を下げる。
悠一は目を閉じてずっと黙ったまま、女子寮から響く声を聞いていた。




