混沌
「ヒッ…!?」
教室の空気が凍りついた。
チッ…。
楓がいつもの舌打ちをする。
珍しく新や美里も険しい顔で教壇を見てる。
「なんで邪魔すんだよ!」
楓が山崎に噛み付いた。
それは一瞬の出来事だった。
明達が待つ教室の扉が開き、陰陽局の平局員である浅桐が一歩踏み込んだ瞬間、浅桐目掛けて3枚の札が一直線に飛んで来たのだ。
札を放ったのは新達の3人。
浅桐に届く前に、その札を祓ったのが山崎。
「大丈夫か?浅桐ちゃん。」
突然の攻撃に固まった浅桐の頭を撫でる悠一。
浅桐は少し震えながらうんうんと頷く。
近々、悠一の式神には浅桐によく似た新しい女が混ざっていそうだと明は思う。
そんな事より…。
「どういうつもりだ?」
浅桐の後ろに居た業平が教室へと踏み込んだ。
ガタンッ!
激しい音と共に、美里が座っていた椅子が美里を乗せたまま真横へと倒れる。
「美里っ!」
さっきまで殺気立っていた楓が真っ青な顔で倒れた美里へ駆け寄る。
(頭が痛い…。)
訳がわからない状況が続き、小さな教室が混沌と化す。
「はいはーい、まず陰陽のお兄さんは廊下に退出~。うちの免疫のない学生が失神してるからね。」
状況の整理をしようと山崎が仕切り出す。
「失神って…。」
狼狽える業平が明の方を見る。
陰陽局が決めた他人のフリ設定を忘れられても困ると明は業平から目を逸らす。
「お黙り、ちんちくりん!業平様は仕事で来てますのよ。それに先に攻撃して来たのは学生の方ですわ。」
明に無視されてショックを受ける業平の前へ、ずいと乗り出したのは業平の秘書である由利香だ。
「あのねー、巨乳の姉さん、あれは魔除け札で攻撃じゃありませーん。いつまでも変なもんを憑けてる浅桐ちゃんも悪いんだよ。」
近寄れば乳を揉んでやると山崎が手をワキワキしながら由利香に向かって構える。
「魔除けの札?」
隣に居た新に聞いてみる。
「古都の塾じゃ教えてないの?僕らは、気持ち悪い感覚がしたら魔除け札を使うように最初に教わってるよ。」
新が明に説明する。
随分と乱暴な教え方だと明の口元が引き攣る。
パンパンと手を叩く音がする。
悠一が自分に注目させる為に手を叩いたのだ。
「まず、陰陽局の局員は教室の後ろへ行ってくれ。アンタらは視察に来ただけだろ?いつまでも前に居たら、失神の被害者が増えるだけだ。」
そう言って業平達を教室の後ろへ並ばせる。
「美里ちゃんは大丈夫そうか?」
次に悠一は美里を抱える楓に確認する。
「はい…、多分、大丈夫です。」
まだ赤い顔をする美里が業平をチラ見しながら倒れた椅子を戻して座り直す。
楓も悠一に逆らう気はなく、大人しく自分の席に着く。
「今日は君達が使った魔除け札について勉強して貰う事にする。山崎、説明してやれ。」
場が治まれば山崎と悠一が交代する。
「その前に、説明して頂けますか?先生方は陰陽局の方達の知り合いなのですか?」
陰陽局側の人間なら悠一達を信用が出来ないと新が楓達の為に質問する。
質問に答えようと山崎が口を開く前に悠一が
「それがどうした?俺達は陰陽局の依頼で君達の講師をしてる。ここの塾の講師だって同じだ。今回視察に来た局員とは何回か仕事で会った事があるから当然、知ってる顔ばかりだ。でもな…。」
悠一が目を細めて懐かしそうに教室を見渡す。
「俺も山崎も元は首都の塾生だったんだよ。そういう意味では君達の先輩って事になる。今は君達が俺達みたいに、将来は陰陽師として国の為に働ける可能性があるかを見る為に局はここへ視察に来たのさ。」
家業を継ぐだけが道ではないと悠一が言う。
塾生には、まだまだ色々な未来の可能性があるのだと語る悠一は明が知らない悠一だった。




