寮則
「ふぁ…。」
楓が大きな欠伸をする。
塾と寮には色々と決まりがある。
まず朝は、6時半までに全員が食堂に揃ってなければならない。
「楓ちゃん、起きて…。」
まだ寝ぼけてるヤンキーを巫女姿の美里が揺すってる。
「朝食を食べながらで良いから聞いて欲しい。今日から陰陽局の役人さん達が視察に来る。視察と言っても君達の日常生活を見に来るってだけだ。塾生は視察をあまり意識せずにいつも通りの生活を送るように…。」
塾長は笑顔で話をするが塾生の楓や美里、新は微妙な不安を顔に出す。
「視察は週末まで…、それが終われば中間テスト。集中しづらいとは思うがしっかり頑張るように。」
塾長の言葉で明も不安になる。
(私もここで中間テストを受けるの?)
受けたところで意味がない。
明の本来の学校では、この週末にテストが行なわれてるはずで、古都へ帰れば明には追試が待っている。
「安倍さん…、顔色が悪いよ。」
美里が心配してくれる。
「明でいいよ。美里ちゃん…。」
「今日の視察…、明さんも不安?」
「視察より中間テストが…。」
明と美里の会話に楓がうんうんと頷く。
「本当、迷惑だよな。テスト前に視察に来るとか…。勉強の邪魔だぜ。」
「いや…、楓は勉強しないだろ?」
思わず新がツッコミを入れる。
「ジタバタするとか性に合わねぇんだよ。」
ぶっきらぼうに楓が言う。
「てか、週末かぁ…、視察があるし、テスト前だけど外出とか出来るのかなぁ?」
業平と食べた牛タンバーガーをもう一度食べたいと明は思っていた。
街までは4時間はかかるが朝から行けば昼には着く。
「日曜日はダメだけど、土曜日だけなら大丈夫だよ。」
美里が規則を教えてくれる。
「日曜日はダメなの?」
「日曜日はテスト前日になるから。」
「あっ、そうか。」
「でも、外出して、どこ行くの?」
この辺りは見渡す限り山しかない。
「うちの車があるから街まで行こうと思ってるの。参考書とかも買いたいし…。皆んなも一緒に行く?」
明の誘いに美里も楓も目を輝かす。
「行くっ!」
「新も行こうぜ。」
「うん、僕もいいの?」
「皆んなで牛タンバーガーを食べようよ。」
「街に、そんなのあるの?」
「牛タンより海鮮丼がいいよ。この寮、山だから新鮮な魚料理が少ないんだよ。」
こうして見ると誰もが普通の高校生だと思う。
「じゃあ、塾長に言って皆んなの分の外出の許可貰って来てやるよ。」
楓が皆んなの面倒を見てやると張り切ってる。
そして放課後…。
「信じらんねー。」
教室で楓が叫ぶ。
「仕方ないよ。」
美里が楓を慰める。
外出許可は降りた…。
ただし、テスト前で視察中だから条件付き…。
「君達だけが楽しむとか、許可する訳ないじゃん。」
ニヤリと山崎が笑う。
「古澤先生も来るの?」
美里が恐る恐ると聞く。
「当然、俺と古澤先生が保護者として付き添います。後、日曜日もたっぷりとテスト勉強に付き合います。」
フンッと鼻息を出す山崎。
山崎は普通教員の資格も持ってる事を思い出す。
(てか、アイツ…、学校の教員バイトは?)
明の本来の学校で、今はアルバイト古典教員のはずである山崎をジッと見る。
「昼飯は好きなものを皆んなに奢ってあげよう。」
悠一が山崎を見る明にウィンクする。
そのウィンクをスルーして明は視線を窓の外へ移す。
「明さん?」
新が明の顔を覗き込む。
「そろそろ、視察が来るよね。」
明が呟いた一言で、教室には微妙な緊張が走った。




