女子寮
女子寮のお風呂場の湯船に亀が浮いている。
「ええ湯じゃ…。」
スイーッと優雅に泳ぐ亀が湯船に浸かる明の前までやって来た。
「玄武様…、もう帰っていいよ?」
ガックリと項垂れた明が玄武に早く消えろと言う。
式神ではあるが、明の意思だけでは帰せない。
契約が終わるまでだと玄武が言う。
「それだけ危険だって事?」
「少なくとも、お前さんの父親はそう思っとる。」
「シーッ…。」
明が慌てて亀の鼻先に人差し指を立てる。
悠一の事は秘密だ。
「心配せんとも儂の声はお前さんにしか聞こえん。」
亀は再びスイーッと湯船の中で泳ぎ出す。
どうやら帰せない亀をしばらく飼う事になるのだと明がため息を吐く。
「そろそろ上がるよ。」
玄武を抱えて湯船から出た明が脱衣場に行くと楓と美里が下着姿で明を見る。
「お先です。」
明が声をかける。
「その亀、飼う事になるのか?」
楓が可哀想な子を見る目で玄武を抱える明を見る。
どうやら楓の中での明は余所者でなく、式神を消せない可哀想な子というポジションに収まったらしい。
「亀って、何食べるの?」
美里が聞いて来る。
(玄武様は神様です。)
そう言いたい明は言葉を飲み込む。
「式神は、何も食べないよ。」
引き攣った笑顔で美里に答える。
「やっぱり、消せないのか?」
ますます楓からの同情した視線が強くなる。
「うん…、なんか私が呼び出したタイミングが悪かったみたい。」
「タイミング?」
そもそも無意味な呼び出しだったなら、低級の式神しか出て来ない。
明も今回の呼び出しなら、せいぜい玄武の分身が出て来る程度だと思ってた。
あくまでも新の力に対する抑制力として呼んだはず…。
なのに、明が危険だと感じた玄武は本体として出て来てしまった。
今、北の地は玄武の力で浄化され続けてる。
本体が存在するだけで、この辺りは安全な土地になってしまうほど玄武の力は凄まじい。
「でも、この子が居ると何だか安心するね。」
何かを感じてる美里が玄武の頭を指先で撫でる。
楓も同じなのだろう。
「それより…、明日の視察…。美里は大丈夫なのか?」
また余所者が来ると楓が心配してる。
「わかんない。でも古澤先生は怖くなかったよ。」
美里が少し照れて笑う。
あんなのでも女、子供にはすぐに懐かれる。
明が冷めた視線を遠くに向ける。
「あの山崎ってやつは気に入らないけどな。」
楓がチッと舌打ちをする。
どうやら楓の舌打ちは癖みたいなものだ。
「あの人、自分の力は見せてくれなかったもんね。」
美里も少し警戒してる。
そこは明も同意だ。
山崎は、あまり自分の力を見せようとはしない。
山崎が術を使う前に悠一が使ってる気がする。
(本当の助手はどっちなの?)
悠一と山崎の立場を明が悩む。
「ほら、ちゃんと拭かないと湯冷めするよ。早く部屋に戻った方がいい。」
ヤンキーの割に親切な楓が明の頭にタオルを乗せてからお風呂へ美里と向かう。
玄武を連れて部屋へ戻る。
ベッドは二つあるが2人部屋なのは楓と美里だけだ。
独りになると寂しいと思う。
「儂が居るじゃろ。」
明の気持ちがわかる玄武がベッドに横たわる明の頬へ顔を擦り寄せて慰めてくれる。
「そうだね。玄武様が居れば何も怖くないね。」
「ああ、だから…、おやすみ。お前さんは良い夢だけを見れば良い。」
明日には業平にも会える。
悠一や山崎も居る。
得体のしれない不安に明が怖がる必要はないと、玄武が明の頬を鼻の先で撫で続けてくれた。




