抑制力
「新君、大丈夫?」
風が止むと同時に明が新の側へ駆け寄る。
「うん、平気だよ。」
何事もなかったように新が笑う。
「今の…、一体どういう術なの?」
「術とか、僕にもよくはわからないんだ。ただ、大気の動きがわかるから、それを少し操作すると色々な事が出来ちゃうんだよ。」
新が頭を掻きながら明に説明する。
大気を操り遠くの物を動かしたり、浮かしたり出来るだけだと新が言う。
「その大気を操る力の範囲はわかるかい?」
険しい顔で悠一が聞く。
悠一がふざけてない状況では、明も皆んなも危ない状況なのだと理解する。
「範囲とか、わからないです。よくわからない力だから…、僕も使わないようにしてるので…。」
新は何事もなかったように笑顔で答える。
「それがいい。出来れば、一生使わない方がいい能力だと思うよ。」
悠一が新に警告する。
新は苦笑いだけを悠一に見せる。
あれは陰陽の能力じゃない。
大気を操る力。
それは天界の天帝だけが持つと言われた力だ。
新が天帝の生まれ変わり?
そんな馬鹿な話は納得が出来ないと明の頭が混乱する。
大気を操れるという事は、自由に雨を降らせたり、雷を落としたりも出来る力で範囲なんか存在しない。
世界中の全てを我が物に出来る力。
背筋が凍るような感覚がする。
明の手が微かに震える。
「残りは安倍さんだけど、やれる?」
明の肩を山崎が2度叩く。
明の震えが止まる。
「やります。」
今は塾生の明…。
正体がバレる訳にはいかない。
「安倍さん、古都じゃ優秀らしいねー。」
悠一が明にプレッシャーをかける。
新の力に対抗出来る力を見せておけという意味だろう。
万が一、新の謎の力が暴走しても止められる存在が居る事を示せと言われてる。
ゆっくりと地面に片膝をついた明が自分の手の平をペロりと舐める。
その手を地面に添えてから言霊を吐き出す。
「古澤さん…、あれってヤバくない?」
南の島で明が使った術を知ってる山崎が小声で聞く。
「ここには鬼道はないさ。」
悠一は余裕の表情で明を見守る。
「北の大地を統べる守護者よ…、我が願いを聞きたまえ。我が名は安倍 晴明…、御身を崇め奉る者也。」
明の言霊は普通の人には聞こえない。
何かの呪文をブツブツと唱えてるようにしか見えない。
言霊は縛る為の言葉。
代々の安倍家が契約した神や妖、鬼を契約で縛り呼び付ける言葉となる。
明が置いた手の先から、グランドの地面に亀裂が入る。
小さな亀裂だが、楓や美里が抱き合って怖がる。
亀裂からポーンと何かが飛び出した。
明が両手を突き出すと、手の平へと着地する。
大きさは20cmも無いと思う。
「「何…、それ!? 」」
恐る恐るの楓と美里がハモる。
明の手の中には亀が居る。
深い緑色をした亀。
分類でいうならゾウガメに似てる。
ただ、普通の亀とは明らかに違う。
フサフサとした毛並みの尻尾が有り、長い眉毛がある。
「亀って…、眉毛とかあったっけ?」
美里が首を傾げる。
「エクステした亀?」
馬鹿にしたように山崎が言う。
『黙らっしゃーいっ!!!』
耳がキーンとなるほどの声が全員の頭に響き渡る。
「あ…、明さん。これは?」
フラフラしながらも新が聞く。
「うん。玄武様だよ。」
ニコニコと笑顔で答える明が亀の鼻先にチュッと軽い口付けをする。
「玄武?」
「聞いた事ない?四神の一人…、玄武様。土地を守る神様だよ。海の青龍様、風の白虎様、炎の朱雀様と並び立つ方なんだよ。」
「あの東とか西とか言われるやつ?」
「そう、北の守護神。」
「そんな凄い神様が明さんの式神なの?」
「式神とは少し違うかな…、美里ちゃんの式神と近い感じになるから…。」
安倍家を守護する存在。
それを式神として呼び出せる。
その力を新に見せる事で新の力を抑制する。
そんな明を父親である悠一は何かに警戒するようにジッと見ていた。




