塾長
「君が…、安倍家からの…。」
暗くなる前に、なんとか山奥にある陰陽塾へ辿り着いた明を出迎えたのは塾長だ。
「はい…、一応は古都に所属する塾生という事になってはいますが…。」
ここで明の身分を知るのは塾長だけだ。
塾長や講師は一応は陰陽局の人間である。
「ここが他の塾とは違うという事は?」
「聞いてはいます。能力の違いは詳しく知りませんが、人数も比較的多いと…。」
「ああ、そうだ。」
割と紳士的な初老という感じの塾長が少し白髪が混ざる頭を掻いて、説明に悩む。
「古都の塾生の現状を知ってるかな?」
「少しは…。」
まず塾生は10歳以下と10歳以上で大きく別れる。
今の古都の塾生は10歳以下が3人…。
10歳以上は0だ。
妖精や存在しない友達が見える年齢は10歳以下に多い。
10歳になる頃には現実を受け入れて、自分の能力を自分自身で封印してしまう為だ。
そのまま、何らかの能力を発動しない子は自然消滅の扱いで塾から普通の生活へ戻される。
問題は10歳を過ぎても何かの気配を感じ、自己防衛として能力を発揮する子の方だ。
10歳を過ぎると身体的にも能力に耐えられるようになり、その能力のコントロールが出来なければ人を傷付けたりする危険性が出る。
だから、その年齢から陰陽師としての基礎を学び、能力のコントロールを身に付ける。
また、能力と言っても様々なレベルが存在する。
例えば、明日の天気を100%に近い確率で当てる事が出来る能力者など、気象庁へ就職するくらいしか能力の活用方法がないと言える。
元は、予言や占いを生業にして来た陰陽師…。
その程度の能力者は山ほど居て、危険はないと判断された者から通常社会へ戻される。
そうやって、ふるいにかけられて行く中で、山崎や悠一のように残る人間はごく僅か。
10年に1人が見つかるか見つからないかの能力者。
それが蝦夷の塾では…。
「10歳以上は15人、10歳以上は今は5人ほど居る。」
と塾長が言う。
「5人もですか?」
人口の比率から考えても有り得ない数値。
「北の人間は、その土地に留まる風習が強くてね。こういう能力者は昔から多かったようだ。」
外へ出る事がなかった能力者。
その能力も未知数…。
それを焦って陰陽局入りさせるべきかと、二の足を踏んでいるのが今の現状だと塾長が伝えて来る。
「ひとまず、安倍さんは高校生のグループに所属して貰う事にしますね。」
そろそろ夕食時、塾長が話を切り上げる。
5人のうち2人は中学生。
塾へは週末だけ来てる程度で、能力も1人は消えつつある状況らしい。
残る3人の高校生に至っては、通常の高校では浮いた存在だった為、この塾の寮に入り、毎日、塾で通常の学業と陰陽の授業を学んでる。
「大学への進学希望者は1人、後の2人は家に帰って家業を継ぎたいと言ってる。」
家業を継ぎたいという子に陰陽局入りという公務員の道を示すべきかが塾長の悩みだ。
一応は政府組織。
強制力はあっても無理矢理に勧誘するのは人道的な問題に反する。
「家業に戻った時のリスクは?」
「言っただろ?北の人間は外へは出ない。その土地では問題になんかならないのさ。」
それでも能力者は欲しいと陰陽局は考える。
難しい選択だと明は深く考え込んだ。




