蝦夷へ
「業平が知ってる情報をちょうだい。」
リニアモーターカーの中で眉を上げた明が業平に迫る。
このリニアが発展した現代では、島以外の国内は全て日帰りが可能になった。
首都から蝦夷まで40分…。
短い時間で出来るだけの情報が欲しいと考える明はどこまで話すべきかに悩む業平を急かす。
業平は慎重に言葉を選ぶ。
「ジャックザリッパーを知ってるか?」
女王が治める帝国で起きた未解決事件。
「通称、切り裂きジャック事件…、未解決事件の代名詞みたいなもんでしょ。」
「明が言う未解決事件は、どっちだ?」
どっちと聞かれても…。
「19世紀の方…。」
「陰陽局が警戒してるのは今世紀の方だ。」
「今世紀って…。」
今、ワールドニュースで話題になってる殺人事件…。
10年前から始まった謎の切り裂き事件だが、同じ手口で5ヶ国が被害にあった。
しかも、ほぼ同じ時刻に起きる事件。
マスメディアは次はどの国かと騒ぎ予想する。
「19世紀の犯人も今回の犯人も陰陽局は鬼と断定し、各国の祓魔師や祭司、司祭も同じ意見に達した。」
要するに世界中の専門家が鬼と断定した存在が切り裂きジャックという事だ。
「それが、今回の任務とどう関係するの?」
「その鬼が自国内に入った時の対策を考えると今の陰陽局では人数不足と判断されたんだよ。」
なるほどとは思う。
世界で一番多いのは祓魔師だ。
その大量の祓魔師が居る国ですら犯行を防ぐどころか犯人の特定にすら至らずに未解決のまま…。
「人数を増やす危険性は無視するの?」
「そもそも陰陽師は政府の雇われ役人で、陰陽局も政府機関の一つだからな。国の命令には従うしかない。」
だから業平は、この件を知ってても行動に移す事を避け続けて来た。
陰陽局の動きが鈍いからと上からの圧力が掛かり、避ける事が出来なくなった。
かといって闇雲に人数を増やせば明が言うように危険だとはわかってる。
陰陽とはその字の如く対局が基本。
鬼使いの安倍家に対し鬼斬りの渡邊家。
そのバランスが崩れれば大惨事も起きかねない。
「蝦夷の塾の情報はないの?」
本題へ明が入る。
「すまん…、塾そのものは古都や首都と同じだと思うんだが、蝦夷に至っては全く情報がない。」
「情報がない?」
「あそこは独自の文化が根付いた土地だからな。」
悠一も山崎も首都の塾出身。
陰陽局も首都と古都にしか存在せず、九州と蝦夷からは報告だけを受けるはずだが、蝦夷の報告はわからない部分が多いと業平が言う。
「そんな所に行けって言われても…。」
「出来るだけのフォローはする。」
明の手を握る業平の手が緊張で冷たくなっている。
「蝦夷って…、そんなに危険なの?」
「危険とまでは言わないが異能者の数が異常に多いのは事実だ。しかも、陰陽師とは異質の能力者が居るという報告が多いんだ。」
つまり、陰陽局でも制御が出来ない可能性が高い。
下手をすれば数で負ける。
「数が多い…。」
「古都とは微妙に違う信仰での神社が多いんだよ。」
名家とは違う意味で代々神主の一族がその地を引き継ぎ支配して来た土地。
同じ国なのに、歩んで来た歴史が違う。
気分は海外旅行だと開き直る明だった。




