可愛い子には…
「これは任務ですよ。」
祖母の明姫が静かな声で言った。
船は無事に港へ着いた。
ただ明の予想とはかなり違う。
港は古都でなく首都の港だったのだ。
しかも、港で明と祖父の忠を出迎えたのは明姫。
『お婆さま!?』
『話は後です。』
問答無用の明姫に連れられ、首都にある安倍家の別邸へとやって来た。
そこで明が知らされたのは業平達と北へ行けという陰陽局からの指示だった。
「北へ?ですがお婆さま…。」
「任務だと言ったはずですよ。」
またしても反論は許されない。
ですがお婆さま…、私は来週から学校です。
言うだけ無意味だと諦める。
「北かよ…。」
悠一が嫌そうな顔で明姫を見る。
「ええ、そうよ。」
明姫は涼しい顔でお茶を飲む。
忠は何とも言えない表情で明姫を見てる。
「北になんかあんの?」
空気を読まない山崎が悠一に聞く。
「北は、蝦夷の地だ。」
悠一が答える。
古都が古の歴史を持つとはいえ、あくまでも都としての歴史に過ぎない。
かつて蝦夷や蝦夷と呼ばれた場所は、まさにこの国の最古の歴史を持つ土地だ。
その蝦夷にある陰陽塾へ明達が視察に入るのが任務だと明姫が言う。
業平はずっと黙ってる。
ただ、その表情は前から知っていたと見られる。
「業平はどう思うの?」
明が問う。
「蝦夷でなければならないですか?」
明の質問に対し、業平は明姫へと質問で返す。
「ええ、九州や古都、首都とは完全にレベルが違いますから…。」
明姫の答えは揺るがない。
陰陽塾は全国に4つ…。
九州、古都、首都、そして蝦夷。
幼児から成人まで、能力を持つと確認された人を一時的に保護し、社会で生活をしても問題が無いと判断された人だけは直ぐに帰されるが、危険かもしれないと判断された人は陰陽の基礎を学ぶ。
明達の名家人と違うのは、フリーパスで好きな学校を卒業したり、国家資格を得たりする事が出来無いという部分で、塾出身の山崎は実力で大学へ行き教員資格を得たのだと思うと流石の明も少しは関心せざるを得ない。
国全体から能力者を掻き集めてる塾とは違い、問題なのは近年の名家の能力者不足だ。
悠一のように名家より能力の高い一般能力者を陰陽局に勧誘すべきだという議題が局内でも度々上がる。
早いうちに名家の養子にしてでも取り込むべきという過激な意見も出始めてる。
そこで明が西の塾からの交換学生として潜入して、北の塾生の能力を確認すれば良いとなったのだ。
当然、明の保護者達は過保護である。
「古澤さんは塾の講師として、業平さん達は陰陽局の視察という形で明に同行して貰うわ。」
これは決定した事だと明姫が皆へ引導を渡す。
南の島から帰ったばかりなのに…。
今度は北の山奥だと言う明姫が鬼に見える。
明姫の背にアカンベーと舌を出そうとした瞬間
「連休中は忠さんと十二分に楽しめたでしょ?貴女が戻るまで私と忠さんは首都で待ってますからね。」
と明姫の重い言葉が壁を作る。
せっかくの連休に忠を独り占めにした明が気に入らない明姫は明が留守の間は首都で忠と二人で夫婦生活楽しむ気満々だ。
「うっ…。」
これ以上、忠との時間を邪魔すれば殺される。
業平も悠一も巻き添えはごめんだと明から目を逸らす。
「気をつけて行くんだよ。」
孫娘が可愛い忠だけが明の頭を撫でて甘やかす。
「行って参ります。お爺さま…。」
半泣きの明が明姫の命令を承諾する。
かくして、一行は古都よりも古き歴史を持つ地へと旅立つ事となった。




