ライバル
「ちょ...、なり...、落ち着いてよ!」
酒呑の元から戻った明の顔中へ口付けを繰り返す業平に明が顔を真っ赤にして叫ぶ。
「う~...。」
鬼のように変な唸り声を出す業平は口付けを止める気が全くない。
これは鬼避けの呪い。
明が初めて酒呑を呼び出したのは5歳だと明姫からは聞いていた。
業平と出会った頃の小さな明はニコニコと笑顔を見せて
『なり兄ぃ...、見て見て♡』
と庭に五芒星の陣を描き、易々と酒呑を呼び出したかと思えば、別れ際は必ず口付けを交わして、しっかりと酒呑を手懐けていた。
鬼に愛情はない。
喰うか喰われるかの本能だけだ。
そして明を人として留める為に明姫も忠も明に愛情だけを注いでる。
悠一が過剰な愛情を明に向けるのも同じ理由。
明を現世に留める錨になる存在として業平が選ばれた。
なのに、当の明は鬼大好きという稀有な陰陽師。
いつだって業平は気が気じゃない。
「酒呑は?」
業平の顔を押さえ付けて明が空を見る。
いつの間にか雨が止み、酒呑が登った空の雲が払い飛ばされてる。
「来たぞ。」
悠一が衝撃に備えて両手を構える。
山崎が悠一の言葉に従う。
空から光がとんでもないスピードで落ちて来る。
それは酒呑であり、角のある牛鬼の眉間に向かって一直線に突き進む。
グモオォォォッ!
酒呑の飛び蹴りが牛鬼に刺さり、大きな図体が地面へとめり込み出すと島の大地が揺れ、立ってるのもやっとという状態になる。
武器を抱えていた島人も慌てふためき、散り散りになって逃げ出す有り様だ。
ズズンッと地鳴りが響き渡る中で牛鬼はドンドン地面の中へと押しやられる。
ほんの数秒のはずだが地球の裏側まで牛鬼が押し込められたように感じた。
牛鬼が居た地面には底が見えないほどの大きな穴が空き
ドンッ
と爆風のような衝撃が明達や島人へ襲いかかる。
そして静寂が訪れる。
「終わったの?」
衝撃への結界を張り続けた山崎が悠一に聞く。
空が明るくなりだした。
「鬼道は閉じた。後は陰陽局の仕事だ。」
悠一が大きな欠伸をした。
酒呑は牛鬼と鬼の世へ戻ったのだろう。
由利香が島人の中からシャーマンを捕まえて手錠を掛けてるのが見える。
「古澤さん…、俺のライバルは、あの頼りない陰陽の兄さんだけって言わなかった?」
膨れっ面の山崎が悠一に聞く。
「そうだよ。」
「あの鬼のが、兄さんより手強いじゃん。」
「それでも鬼は鬼、人は人なのさ。俺なんか明菜に何回茨木との浮気を見せつけられたか…。」
「浮気されたの?」
「知り合った女の子と飲みに行くと明菜が同じ店に茨木と居るんだよ。」
「それは自業自得ですよ。」
全てが終わり、業平と抱き合って笑う明の笑顔が眩しいと山崎が目を細める。
「可愛い顔して、怖過ぎるよ。明ちゃん。」
そう悠一に言うと山崎が車へと乗り込んだ。
「明~、帰って爺さんを迎えに行こ~。」
業平とじゃれ合う明を悠一が呼ぶ。
この後は、業平達、陰陽局の仕事であり悠一達には関係ながなく、明はただの観光客に戻る。
「そうだ!お爺さま!大丈夫かしら?」
「爺さんは島の反対側に居たはずだから大丈夫だよ。」
「お爺さまのコーヒーが飲みたいわ。」
「パパもだよ。」
悠一が父親としての笑顔を向ける。
明だけは、絶対に現世に留めておきたいと誰もが願った清々しい朝だった。




