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徒然なるままに陰陽師  作者: Noise
明、南の島へ(後編)
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酒呑



「我が眷族なる者よ。我が呼びかけに応えよ。我は汝が主、安倍(あべの) 晴明(せいめい)なりっ!」


空一面に稲妻が走り、明自身にも落ちたように見えた。


「明っ!」


気が気じゃないのは業平だ。


地面に手を付いて屈み込む明の前に円を描く風が舞い、黒い揺らぎが立ち上る。


「久しいの。安倍の()よ。少しは女子(おなご)らしゅうはなったかの。」


揺らぎが野太い声で話し出す。


サッシュで締めた下履きだけで上半身が裸の男が明を見下ろすようにして立っている。

裸足の足首や腕に金の装飾品を付け、羽衣の様な薄い布だけを背に纏ってる。


背丈が2m以上はあると業平は思った。

見せつける身体は彫り込まれた彫刻のように綺麗な筋肉をしている。

腰まで届く長い髪。

その長い髪から尖った耳と角が出ており、長い爪を持つ指先が明に向かって伸びる。


ニィッと笑う口には牙があるのに明は笑顔で男の首に手を回し、男は軽々と明を抱き上げた。


酒呑(しゅてん)っ!」


明が鬼に頬づりする。

酒呑童子...。

数多の鬼を従えた伝説の鬼が明を抱き上げてるとか業平は気を失いそうだと考える。


鬼とはいえ、かなり男前だと由利香も口を鯉のようにパクパクとさせている。


「此度は何用じゃ?安倍の娘よ。」


雨に濡れて泥だらけの明の顔を鬼が長い爪で愛おしげに撫で回す。


「五芒星のせいで、この島に鬼道が開いてるの。」


眉間に皺を寄せて明が酒呑に答える。


「ほぉ、鬼道がのぉ...。」


鬼は明の言葉を吟味する。

明に従うべきか否か...。

鬼にとって都合の良い状況は常に鬼道が開いてる状態だと云える。

鬼道は現世と鬼の世を繋ぐ道。


鬼道があれば鬼は幾らでも人を喰らいに、この世界へ出て来る事が出来てしまう。


ただし、鬼を操るのは明だ。

陰陽師は鬼を倒し祓う者。

しかし、安倍の女は違う。

唯一、鬼を使役する事が出来る陰陽師。


使役する鬼のレベルは能力で変わる。

明姫でも酒呑が従えた四天王までしか使役出来ず、明の母、明菜も茨木童子まで...。

易々と鬼の王と呼ばれた酒呑を呼び出して使役が出来るのは明だけだ。


酒呑なら、この島に根付いてしまった邪気を祓い、牛鬼を鬼の世へ送り返す事が出来る。

これは神対神の戦いだ。


「鬼の王があんな牛に尻込みするの?」


酒呑を明が挑発する。

牛鬼は力はあるが知恵が無い。


「出来なくは無いが...、ちと骨が折れるのぉ...。」


生け贄で大きくなった鬼は面倒なだけだ。

小指の長い爪で耳をほじる酒呑が面倒臭そうにして明に駆け引きを持ちかける。


「じゃあ、これなら余裕でしょ?」


ニンマリと笑う明が酒呑の顔に顔を近付ける。


「明っ!?」

「うげっ!?マジか!」


業平が叫び、山崎が固まる。


「パパは見たくない...。」


悠一は自分の手を目に乗せて空を仰ぐ。


明がゆっくりと酒呑の唇を舐める。

明に応えるように鬼の口からも舌が出る。


傍から見れば、鬼と陰陽師の少女がイチャついてるようにしか見えない。

舌を絡ませるほどの深い口付けが長く続く。


「ふぁ...。」


頬を紅く染める明が熱い吐息を出す。

鬼は人を喰らう者。

それは、体液でも構わない。

血でも肉でも唾液でも、要はその人間にそれだけの価値があれば鬼は満足する。


鬼にとって安倍の血筋は最高級品だ。

牛鬼が喰らった100人の10倍は価値がある。


「良かろう...、安倍の娘よ。牛鬼を鬼道へ返し、我が配下にしてやろう。」


酒呑が満足したらしい。


「お願いするわ。」


勝ったと笑う明が酒呑の腕から飛び降りる。

明と鬼の抱擁に放心状態に陥った業平の元へ小走りで駆け付ける。

ファーストキスだった業平には悪いが、明のファーストキスは酒呑となる。

明に言わせれば


『ペットの犬に顔を舐められてるのと同じ。』


らしいが未熟な業平には、まだ割り切れない。

明が離れたのを確認した酒呑は、軽く地面を蹴り空高く舞い上がっていった。



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