ブレーキ
『毎回、鬼を呼び出してるのは島の宗教的指導者?』
明がバーテンダーに質問する。
バーテンダーは驚いた顔をする。
『お前...、言葉が...。』
わかるのか?
当然ではある。
何万と複雑に存在する妖の言語に比べれば、人の言語は単純だ。
陰陽師なら誰でも出来る。
業平も忠も...、明だって例外では無い。
ただ、経験値が乏しい明には時間がかかる。
だから悠一に喋らせた。
それだけの事に驚かれても迷惑だと明は思う。
『質問に答えなさい。』
『俺達は我が神の言葉に従っただけだ。』
バーテンダーがそっぽを向く。
「説明をなさい。小娘。」
状況が掴めてない陰陽局として由利香が明に聞く。
「多分、大昔にこの島の人間が鬼を呼び出したのよ。」
明が島の地図を取り出して説明する。
それは森下から預かった地図。
地図には石像がある場所が示されている。
石像があるのは五箇所。
それを明が指先で線を引いて繋げる。
島を円として石像がある場所を繋ぐ線が星型になる。
「五芒星っ!?」
由利香が叫ぶ。
五芒星は魔法陣とも言われ、邪気が溜まると風水では忌み嫌われる。
そんな魔法陣から呼び出されるのは悪魔...。
角の生えた悪魔を明達の国では『鬼』と呼ぶ。
「ただの悪魔信仰ではなさそうだ…。」
業平が嫌そうに呟く。
神殺しは出来ない。
神は祓えない。
そんな状況で陰陽師として鬼と戦う事になる。
「善か悪か...、なんて所詮は人の基準だもの。」
明はケロリとして答える。
ライオンが兎を狩るのが悪か?
人が牛や豚を食べるのが悪か?
そんな善悪を勝手に決めているのは人間であり、人を喰らう鬼を善とするか悪とするかも人の基準でしかない。
この島の人間は悪だと思わずに悪魔を呼び出し、島の利益の為に利用した。
こうして始まった悪魔信仰は島の中だけで代々受け継がれて来たが、悪魔を呼べるほどのレベルのシャーマンが出なかったのだろう。
呼び出せなければ実害は無い。
呼び出したとしても、呼び出した本人に力があれば問題も起きない。
だが、10数年前に島に帰って来たと言われるシャーマンは中途半端に西洋の知識を持ち、再び島の神を呼び出す事に成功した。
よく当たる予言や占い。
本当に当たる訳でなく、島にとって都合のいい予言をして悪魔にそれを遂行させる。
その報酬が島の生活資源となる。
島に報酬があるように、悪魔も島に報酬を求める。
「だから生け贄が必要だった。」
セキュリティのない安物のコテージ。
一人旅の女性なら簡単に拐える。
警察が来てもフェリーに乗ったと言えば島は関係ないと誤魔化す事も出来る。
佐久間 智恵美の場合、催眠ガスでもコテージの中に充満させてから連れ出したと思われる。
智恵美が会いたかったのはシャーマン...。
森下の学生だった智恵美は森下と同じ興味を島に持った可能性があり、実際に智恵美は居留地を訪れている。
「シャーマンを疑ってた佐久間 智恵美が島の人間には鬼に見えたんでしょ。」
「だからって、拐って生け贄にするか?」
「バーテンダーが言ったじゃない。自分達は神の言葉に従っただけだと...。」
自分達は悪くない。
あくまでも神の言葉に従っただけなのだ。
狭い島だからこそ起きる悪質な考え方。
「外の人間からすれば、この島の人間は全員が鬼だと言えるわ。」
そんな風に鬼が生まれるのは悲し過ぎると明は思う。
そろそろ居留地の手前のバリケードという時に、やはり業平は急ブレーキを踏み車を停めた。




