有事
「なり...、起きて...。」
隣で眠る業平を明が揺する。
いわゆる丑三つ時...。
「明...。」
寝ぼけて明に手を伸ばす。
「起きて服を着て...。」
明に伸びて来た手をペシッと叩いて業平を睨む。
「なんだ?」
「いいから...。」
そう言って既に着替えが終わってる明が広いベッドから降りる。
後に続く業平。
着替えと言っても、ここは南の島。
Tシャツにジャージで寝てた業平だから、改まって着替える必要は無い。
明が真っ暗なリビングに出て窓を開ける。
空模様が悪く今にも雨が来そうだ。
プールサイドに人影が見えた。
業平が緊張してリビングの灯りを点ける。
「あらら、明ちゃん、起こしちゃった~?睡眠不足はお肌に悪いよ~。」
手にロープを握る山崎がプールサイドから間伸びした声を明に掛ける。
「明~、パパ、頑張ったよぉ。」
3人の男をロープで縛りながら尻尾を...、手を振る悠一。
「お爺さまは大丈夫?」
「爺さんなら園田さんが付いてる。狙われたのは明のコテージだけだよ。」
明と忠のコテージに結界を張ったのは悠一。
その結界に侵入者があれば、地球の裏側からでも悠一は飛んで来る。
「見覚えのある顔ね。」
悠一が捕らえた3人の男の内、2人を明は知ってる。
一人は居留地の手前でライフルを握っていた中年男。
もう一人は海岸線のBARにいたバーテンダーだ。
「何故、明を狙う?」
鈍い業平が聞く。
「そろそろ、生け贄が必要だからさ。」
答えるのは悠一。
明のようにいちいち情報を集めなくとも悠一はこの島に何が居るのかがわかってる。
「居留地に行くわよ。今度は安息日とは言わさない。」
明の言葉を理解する山崎が動き出す。
忠のコテージの前に停る車は2台。
業平が運転する車に簀巻きにしたバーテンダーを乗せて明も乗り、残りは山崎が運転する車に乗り込む。
「業平様、私を置いて行くつもりですか?」
騒ぎに起きて来た由利香が騒ぐ。
「園田さんはお爺さまを連れて森下教授のところへ。業平、陰陽局の人間は全員、お爺さまの護衛に回して。」
由利香を無視して明が命令を下す。
園田兄は状況を理解して忠の為の車の用意をする。
「小娘は黙ってなさい。」
「渡邊、安倍の命令には従え!」
自分の秘書を業平が怒鳴りつける。
有事の際は全権限を安倍家に委ねる決まりだ。
今は有事と判断した。
明姫が居ない状況で、引退した忠でなく明がここではトップとなる。
「何と言われようと私は業平様について来ますわ。」
悔しさに歯を唇に立てた由利香が粘る。
「急がないとヤバいよ~。」
後ろの車に居る山崎が急かす。
雨が降り出した。
地道しかない島で身動きが取れなくなる前に居留地に着く必要がある。
「鬼斬りは役に立たないわよ。」
キッパリと明が言い切る。
この島では鬼は信仰の対象である。
つまり鬼を斬れば、それは神殺しを意味する。
「それでも...、私は業平様の...。」
秘書だから...。
明の命令に従わなければならないと言われれば終わりだとわかってて由利香が呟く。
「乗って...。」
明にも情けはある。
嫌いな鬼斬りでも業平を思う気持ちは理解が出来る。
簀巻きのバーテンダーの横へ由利香が乗り込んだのを確認した業平が車を出す。
いざ、鬼退治へ。
普通なら桃太郎気分だが、明は違う。
待ってなさい。
島の鬼。
絶対、私の前にひれ伏させてやるから...。
新たな鬼に会えるとワクワク感を隠そうとしない明に業平が小さなため息を吐いた。




